アニメ界の旗手、原監督の巨匠へのリスペクト 木下恵介作品を見ないともったいない

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――『二十四の瞳』『破れ太鼓』『楢山節考』など、劇中ではいろいろな木下作品のオマージュが散りばめられていました。そこは意識的に作られたのでしょうか?

それはそうしたいと思っていました。本当はもっとたくさんやりたかったんですけど。

個人作業の積み重ねのアニメとは違った

――実写の監督をやってみて、アニメを監督するときの違いはどうでしたか?

アニメ―ションというのは個人作業の積み重ねなんですよ。監督の作業も、自分の机に向かって絵コンテを描いたり、原画のチェックをしたりと個人作業なわけです。スケジュールはもちろんありますけど、基本的には自分のペースで仕事ができます。そこで悩んだり、保留にしたりといったことができるのですが、実写はそうはいきません。このシーンを撮るとなったら、もう立ち止まれない。何か問題があったらその場でクリアしないといけないし、判断しないといけない。そこがいちばんの違いだと思いました。

実写監督をやっての手応えは、個人的にはあまりなかったですね。現場、撮影が終わるところまでは、自分は役立たずの監督で終わってしまったなという印象が強かった。初めての実写なので、そんなにうまいことは作れないだろうと思っていたんです。あまり期待値を上げてなかったというか。だから撮影が終わったときも、無事に終わってよかったという思いが強くて。撮影期間中は本当にいっぱいいっぱいでした。

ただ、やはりラッシュを編集して、音を付けて、音楽を付けてという、わりとアニメでもおなじみの作業に入った頃から、自分が思ってた以上に「あれ、この作品、実は結構よくなってないか」と思えてきました。今では、いい映画に仕上がったと思っています。

実写の監督は、もう二度とやりたくないとは思わないですが、かといって、そんな簡単にすぐにまたやりたいとも思わないです。結局、最後まで自分がいろいろとわからないまま終わったな、という自覚があるので。ただ、今はもう次のアニメ作りに入っていますからね。

(C)2013「はじまりのみち」製作委員会

――今回の実写経験が次回作のアニメ制作に生かせそうでしょうか?

だったらいいんですけどね。でもやっぱり……、むしろ僕は今、困っています。実写で体験したことが、アニメではまったく生かせないと感じているんで。やはり実写とアニメでは、同じ感覚では作れないものなんですよ。どっちもうまいことやるなんて、なかなかできないと思いました。

演技にしても、アニメの場合は、どんな表情で演技をするのかということも、ある程度自分で納得してやっていますけど、実写の役者さんはそうじゃない。役者さん任せのところが多い。ただ皆さん、僕があれこれ言う前に、ちゃんと正しい演技を見せてくれますからね。自分が想像した以上の演技とかをしてもらえると、感動されられますね。今回の役者さんはみなすばらしかった。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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