39歳大学講師が結婚のために「捨てたもの」 村上春樹のような「いい返し」は要らない

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柔軟性の高い晴彦さんが結婚相手に求めるものは「一緒に楽しく暮らせること」。彼は一人暮らしが長く、一通りの家事はできる。

「家政婦役を求められたら困るけれど、一緒に楽しく暮らすことなら自信がある!と思いました」

幸せそうに笑う智子さん。結婚して半年後には妊活を始めた。晴彦さんには不妊治療に関するミニ講義を行ったところ、ちゃんと理解して協力を誓ってくれた。そのうえで通院。

排卵日をちゃんと把握して性交する「タイミング法」は実践済みなので省略し、人工授精は1回のみであきらめ、現在は体外受精に進んでいる。1回につき50万円程度の費用がかかるが、晴彦さんと貯金を出し合っている。

早くに結婚すればよかったとは思わない

婚活と同じく「おカネよりも結果が欲しい」と判断したからだ。それでも智子さんはもっと早くに結婚すればよかったとは思わない。

「自分が結婚相手に求めるものがわからないままに結婚していたら、安易に仕事を辞めたりして後悔し、今ごろ離婚していたかもしれません。遅くに社会に出た私の場合、30代前半で適切な結婚相手を見つけるのは無理でした」

働き方、住む場所、インテリア、食事内容、金銭管理、家事分担、子育て、家族や友人との付き合い……。好きな相手でも、結婚して家庭を共有すると相違点が次々に見つかる。すべてを自分に合わせてもらうことはできない。「相手のほうが素敵な家具を知っているかもしれない」「老親の介護をどうするか。夫婦で話し合ったら良いアイデアが浮かぶかもしれない」という姿勢が必要だし、それが結婚生活の面白さであり強みだと思う。

ただし、誰しも譲れないポイントがある。食い意地の張った筆者は、食を重視しない女性とは一緒に暮らせない。智子さんの場合は、研究者としてのキャリアを断絶する生活は考えられない。

「どうしても外せない条件を1つだけ決めておきなさい」

智子さんの友達からのアドバイスを思い出す。それが満たされれば機嫌良く暮らせるような条件は自分にとっては何なのか。長い人生を楽しく過ごすためのシンプルだけど真剣な問いである。

大宮 冬洋 ライター

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おおみや とうよう / Toyo Omiya

1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリングに入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。著書に『30代未婚男』(共著、NHK出版)、『バブルの遺言』(廣済堂出版)、『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ともに、ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる 晩婚時代の幸せのつかみ方』 (講談社+α新書)など。

読者の方々との交流イベント「スナック大宮」を東京や愛知で毎月開催。http://omiyatoyo.com/

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