告白すると、筆者は会話で「いい返し」をするために頑張っていた時期がある。モテたいからだ。理想は、村上春樹の小説に出てくる主人公みたいにウィットに富んだクールな返しである。
しかし、頑張ってもいい返しをできるようにはならなかった。考え過ぎて返事があいまいかつ遅くなったり、思ってもいないクールっぽい言葉を発して場を凍らせたり。むしろモテから遠ざかった苦い記憶が蘇る。
まずは話をちゃんと聞くこと
智子さんの話を聞きながら、もう少し現実的な「いい返し」を考えている。まずは相手の話をちゃんと聞くこと。これが意外と難しい。気を抜くと、聞いているうちに他のことを考えて上の空になってしまう。
次に、話を聞いたうえでの感想や意見、思い出したことなどをできるだけ具体的な言葉にすること。もちろん、相手を不当に傷つけないように注意はする。一方で、「こんなことを言ったらバカにされるんじゃないか」といった自己防御は取り払うべきだ。われわれが当たり障りのない返事をするとき、相手に配慮をしているのではなく、自分を無駄に守っているに過ぎないことのほうが多い。確かに無難だけれど、知的な相手からは「手応えがない。つまらない男だ」と思われるだろう。
相手の話をしっかり聞いたうえで積極的に自己開示をする。嫌われたりバカにされたりするリスクはあるが、「いい返しをするな」と喜んでくれる人もきっといるはずだ。
智子さんの話に戻る。婚活パーティや合コンは自分に向かないと悟った智子さんは、結婚相談所への入会を決意する。37歳のときだ。しかし、無数の相談所からどこを選べばいいのだろうか。智子さんは今度も親しい先達に頼ることにした。
「ご夫婦で経営している相談所が埼玉県にあります。私の自宅からはちょっと遠いのですが、友達がそこに入って4カ月で結婚を決めたので、話だけでも聞いてみようと思いました」
その友達も同行してくれて、結婚相談所へと向かった。所長は率直な人柄で、「うちも他の結婚相談所と同じデータベースを使っている。会える相手はどこも一緒」「30代も後半になると苦戦する。35歳になる前に来てほしかった」と明言。
入会すれば数万人の登録者がいるデータベースにアクセスできるが、智子さんが希望する条件である「東京圏に居住」「年収500万円以上」「34~45歳まで」をすべて満たす男性とお見合いするのは「多分無理」ともはっきり言われた。この人なら信頼できると感じた智子さんは入会を決意。入会金は18万円、月会費は1万円、成婚料は30万円である。決して安くはない。
「今の自分が欲しいのはおカネよりも結果だと思ったんです。1年間だけ一生懸命にやることにしました」
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