そもそも、ナニーの皆さんはこちらが申し訳なくなるぐらいありがたい存在である。彼女たちは自分が働けるときは幼児や高齢者など“非生産者”の面倒をみてくれて、働けなくなると、年金や福祉の受給者として日本の若者に面倒見てもらうわけでもなく、本国にお帰りになる。これらヘルパーの仕事は日本国内でやりたがる人が少ないため国内の雇用をクラウドアウトせず、増大する高齢者福祉費用の低減にも寄与するだろう。
海外から来てくれるナニーはあなたの愛妻を少し怠け者にするかもしれないが、その普及は女性の社会進出促進を助け、育児負担を減らし、潜在的には少子高齢化や複数の社会問題への有効な解決策のひとつになるだろう。
しかし、たぶん“お手伝い移民“は日本に来ない
これだけお手伝いさん移民のよさについて議論してきたのに、最後は「どうせ彼女たちは日本にこない」という終わり方にするのはたいへん心苦しい。しかしながら彼女たちが日本に来てくれない理由はたくさんある。
まず移民政策に消極的な政治家が時間を浪費している間に、年々、彼女たちの賃金は上がっており、デフレで毎年賃金が下がる日本との所得ギャップは狭まっていくだろう。そのうえ、英語がほぼ通じない日本では、彼女たちとの間でコミュニケーション上の困難が伴う。またインドネシアの隣のシンガポール、フィリピンの隣の香港と異なり日本は地理的にも遠い。
しかも近所のシンガポールや香港でも人手不足でつねに“よいお手伝いさん”への需要が非常に強い。インドネシアでもフィリピンでもナニー専門の資格があるくらい、高品質サービスを提供してくれるナニーは、ヘルパーとして本格的なトレーニングと実務経験を有している。家事のお手伝いといっても、大卒や大学院卒の高学歴な人も多く、ついでに子供の言語教育なども担えるナニーはどこの国でもひっぱりだこである。
各国がこのように優秀なナニーの確保で競争する中、海外からの移民受け入れに消極的な政治風土も相まって、移民受け入れの議論がまるで進んでいない国が東経135度、北緯35度に存在する。このままでは海外からナニーのおばさんたちに来ていただいて、彼女たちが日本人の生活の一部に組み込まれる日は、相当程遠いか、おそらく来ないだろう。
生産性の高い女性が経済活動を続けるのを支援してくれるナニーの有無は、社会を構成する壮大な連立方程式の重要な変数として、社会の女性労働力化率、出生率、労働人口、社会福祉負担(ひいては税率)に関し、シンガポールや香港から東京が差をつけられる重要な一因となるだろう。
何十年か後の東京で、とある日曜日、代々木公園や新宿の歩行者天国で、ゴザを敷いてナシゴレンを囲みながら陽気な笑顔でパーティーを開くインドネシアやフィリピンのおばさんの姿を目にすることができるのであろうか。
それが実現したとき、代々木公園には現在のようにミニチュアダックスフンドやロングコートチワワだけでなく、より多くの子供たちを引き連れた、ブラックベリーで海外本社からのメールをチェックするキャリアウーマンの姿を目にすることができるに違いない。
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