「マックの厨房で死ぬ」とまで言い切る男 OB・鴨頭嘉人氏に聞く

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――マクドナルドのQSC(クオリティー、サービス、クレンリネスの頭文字で飲食店の基本姿勢)は定評がある。なぜこの業界は基本であるQSCが徹底できないのでしょうか

鴨頭嘉人(かもがしら・よしひと)
株式会社 ハッピーマイレージカンパニー社長
1966年生まれ。19歳でマクドナルドでアルバイトを開始、89年に入社し正社員に。マクドナルドを退社し、2010年にハッピーマイレージカンパニーを設立し、現職

例えば、ある企業に研修の講師として行って質問をします。「組織やチームワークを高めるため、もしくはお客様と良い信頼関係を築くために、挨拶を大切だと思う人は手を挙げてください」と聞きます。そうすると、100人いたら100人が手を挙げます。

でも「じゃあ毎日、最高の挨拶をしていると確信を持っている方は手を挙げてください」と聞くと、何人手を挙げると思います? やっぱり1人もいないんです。QSCも同じことです。大切だとわかっていても基本であればあるほど実はできない。

例えば何十年もずっと黒字とか増収維持している会社は基本ができている。それはビジネスモデルがどうという問題ではない。経営と生き方は同じで、基本が大事です。挨拶のような基本ができていないのに、その上に乗っているストラテジーとかマニュアルや仕組みばかりを追い求めても成果は出ない。QSCも同じことです。おいしい商品を提供するために、賞味期限を守れとか、温度の管理をちゃんとやれ、マニュアル通りに手を洗えといったことは楽しそうに聞こえない。

それを楽しくてワクワクするように伝える人間がいるとできる。例えば、勝手に「手洗い隊長」みたいな腕章を作って「よし、今日の手洗い隊長は君だ」「皆さん、30分経ったので手洗いです。サンキュー」というチームカルチャーを作ればできてしまう。こういうことをやって、一つずつ変えていくと、トータルのQSCも改善して、売り上げも良くなるし、人の定着性も向上する。リーダーはただ「やれ」というのではなく、本気でそれを成し遂げようと工夫をしているかが求められる。

アルバイトから始めて店長になるまで、すべてが成長の糧

――著書『人生で大切なことはみんなマクドナルドで教わった』にはどういったメッセージが込められているのでしょうか

この本には僕が大学に入って、マクドナルドでアルバイトを初めて、店長を卒業するまで、出会った人を通じて、学んだり、気づくことで成長していく様子を書いています。僕のトレーナーを務めた礼儀正しい年下の高校生、朝食メニューのタマゴをなかなか割ることができず、自宅で毎日タマゴを割る練習をしていた人、殺伐としていた厨房を最高のあいさつで雰囲気を変えてしまう女子高生、厳しかったけど、ただ厳しいだけでなく僕が社員になるきっかけを作ってくれた社員の方。僕がずっとマクドナルド一筋できたのはこういった尊敬できる人との出会いがあったからです。

ただ、この体験はマクドナルドだから起きていることではなく、マクドナルド以外でも本当は体験できることです。そもそもマクドナルドにバイトにくるのは家が近いから、ちょっとお小遣いほしいからという普通の人です。ディズニーランドや高級ホテルのリッツカールトンのように最初から高いモチベーションで働きにくる場所ではありません。

マクドナルドには成長ができる仕組みが整えていたり、理念であったりとか、それの伝え方がちゃんと備わっています。そういったものはどこのビジネスでも再現性があるんです。このスタッフが生き生きと成長できる“秘密”を伝えたくて本を書きました。

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