”暴走老人”を止められるのは若いあなた
アジア外交をめぐる世代間ギャップ

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教訓その2・下ろせないコブシは振り上げない

「国際法上も歴史上も地理的にも我が国の領土」と各国が念仏のように唱えているが、100年ごとの世界地図を見れば、各国の領土がつねに変わっているのことがわかるだろうし、その広範かつ深遠なインプリケーションは親愛なる読者の皆様にお任せする。

ただし国内だと政治パフォーマンスも必要なので 「領有権は譲れない」と声高に叫んでみるものだが、従来はこれをプロレス(またプロレス問題で怒られないよう念のため付け加えておくと、あくまでいい意味で)と認識している指導者が双方におり、これをセメントマッチ(真剣な殺し合い)に持ち込むのは、外交のプロのやることではないと認識されていたはずだ。

この問題をめぐっては、振り下ろし先のないコブシを振り上げて、経済と外交全体に多大な被害を与えるより、外交でよく言われる“Strategic Ambiguity”(戦略的あいまいさ)が現実的な回答であった。そもそも白黒つかない問題に白黒つけようとするから紛争が深刻化するのである。

イスラエルの核保有問題やその他多くの国際問題と同じく、明言せずにエスカレートさせないのが、全体の現実的利益に適うケースだったはずだ(例えて言うなら、完治はしないが死に至りもしない、慢性病との付き合いのようなもの)。そして最終的に、現実的な落としどころを探すために、水面下のパイプを通じ“建前でない“やり取りを続ける、というのが外交の常識ではなかったか。主張したいことを強く主張するためにも、日頃から強い信頼関係とパイプを構築しておかなければならないのだ。

特に歴史的な超大国の地位を回復し、真正面からぶつかって勝つのは難しく、かつメンツを世界一重視する中国を相手にするのだからなおさらのことである。

教訓その3:若者こそアジア外交立て直しに取り組むべき

私は一連の領土問題をめぐる外交政策のまずさに、「外交問題の世代間ギャップ」を感じる。

高齢でアジア諸国との外交に配慮をしなくても人生は一丁上がりで、感情論に訴えて短期的に勇ましい花火を打ち上げたい方々と、これから生きていくためにもアジアの隣国と信頼関係を築き、仲良くやっていかなければならない若年世代との間に、“あるべき外交政策”の姿に極端なギャップがあるのだ(まぁ、高齢世代の間でも意見は大きく分かれているので単純に世代で区切るべきでもないが……)。

中にはアメリカにもアジアにも強硬な姿勢をとろうとしている暴走政治家がいるが、ひょっとすると彼なりに深慮遠謀があるのかもしれない。たとえば自分が確信犯的に右のほうに極端に振れることで、実際政権を担う自民党の政策を相対的に穏健なものに見せようとしている可能性もある。しかし石原慎太郎氏の相手国を無意味に侮辱する軽率な発言は、彼自身の自己満足の代償として、確実に日本の国際的評判と経済的利益を損なっている。

たとえば、愚かにも中国を“シナ”と呼ぶのは日本を“ジャップ”と呼ぶようなものだが、これは、日本ほどの大国の首都の首長ないし国会議員にふさわしい外交品性だろうか。もし(親愛なる読者の皆様以外の)有権者が、「彼の考えには賛成できないが、ズバッとはっきり意見を言うから支持する」といういささか幼稚な理由で失策の数々を許してしまっているなら、政治家の国際性がないことを嘆く前に有権者の国際性を養う必要がある。

日本の国際的名声と次世代の日本人の利益に照らして考えたとき、暴走老人には小説の世界にお戻りいただくのが彼にとっても国にとっても幸せなことであるように思う。この日本には頭もよく品と国際感覚を兼ね備えた優秀な若い人がいくらでもいるのに、日本の顔として彼らが登用されないのは極めて残念だ。

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