”暴走老人”を止められるのは若いあなた
アジア外交をめぐる世代間ギャップ

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領土問題では、どこの国民も強硬対応を求める

領土をめぐる外交問題は、中国では、対日本に限らず、連日熱く報道されている。

たとえば、尖閣問題で燃え上がる直前はフィリピンとの間で領有権を争う黄岩島でフィリピンの皆さんへの非難が連日繰り返されていたし、そのちょっと前はベトナムとの間の領有権紛争で連日ベトナムへの非難が繰り返されていた。曰く、「中国は他国の顔色ばかりうかがって弱腰で遠慮ばかりしてきたから、こんなに諸外国に付け入られるのだ」と。これは諸外国の感覚ではびっくり仰天の言い分であろう。

ただ日本との外交問題による炎上で、他の島へのメディアへの関心は全て吹っ飛んだ。紛争相手が日本だと、歴史的経緯からその燃え上がり方のレベルがはるかに高まるのだ。

教訓その1.政治家やメディアは公平・中立たり得ない

さて、この島をめぐる問題だが、中国の報道を毎日見ていると、当然ながら、“入ってくる情報の種類”が日本における報道とは大きく異なる。

“釣魚島”は古来の明の時代より中国が支配していたのに、日清戦争に敗れ、諸外国から侵略されている最中、「国土を蚕食される過程で外国にかすめ取られた領土」ということになっている。そしてアメリカと日本が講和したサンフランシスコ講和条約には中国が参加しておらず、一方的にアメリカによって日本へ割譲された領土であるという。この文脈において、尖閣諸島・釣魚島をめぐる問題は、アヘン戦争に始まる中国の屈辱の歴史の一部と見なされるため、中国の人々は非常に敏感になる。

一方、私が日本に出張したときに日本のテレビを見ていると話はまったく別だ。

尖閣諸島は70年代に海底資源が発見されてから、中国が突然領有権を主張し始めた領土で、昔は中国共産党も日本領土と認めていた――そうした内容が、漁船体当たり事件と結び付けて連日報道されていた。そしてこの島が中国領土などというのは荒唐無稽な領土侵犯で、歴史的にも国際法的にも日本のものである、と。

驚いたのは、高い教育を受けた日本の友人たちもSNSなどでかなり過激な書き込みを実名でしていたことだ。戦時の集団興奮状態に陥っているようで不気味であった。

いろんな国で働くとまざまざと実感するのだが、日本でも中国でも韓国でもどこの国でも、メディアというものは特に領有権をめぐっては中立性などありえず、政治家や大衆のセンセーショナリズムに沿った報道しかできないものだ。特にナショナリズムが高まる昨今の東アジア情勢ではなおさらそうなる。

外交とは「どれだけ相手国から分捕ってくるかが勝負で、道徳性や正義を行動の原則にするのは愚かだ」と考えて、確信犯的に極力「右」の方にエサを投げて国民を誤誘導している政治家もいる。しかしここで肝心なのは、賢い国民が自国のメディアだけを鵜呑みにして、感情的な対立を延焼させないことだ。

係争の余地がある領土に関し、自国の権利を主張するのは当然である。ただしメディアや政治家に踊らされて怒り狂った行動で自滅的な政治家を支持すれば、損をするのは結局自分たちになる。相手国と信頼関係を構築し “賢く怒ってくれる”政治家をピックアップすることが大切だ。

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