木本:まだかまだか、と待っていたんですね。
美根:参戦すれば、ソ連があこぎな要求をしてくるのは百も承知だったので、国務省はそれを阻止するべくヤルタ会談に臨むルーズベルト大統領にファイルを渡していました。ルーズベルトはすでに病気で、その年の4月12日に亡くなりますが、ファイルは持っていても見なかったそうです。そこには樺太は返還すると書いてあったが、千島については引き渡してよいとは書いてなかった。要するに国務省のアドバイスを聞かなかったのが真相らしいです。
木本:なるほど。ええかげんなことを言ってでも、とにかく参戦してもらおうと。
美根:「アメリカさんあなたはくれると言ったじゃないか」という気持ちはソ連にはある。ただ、それは戦争中の約束ですから、微妙なんです。
木本:日本はアメリカに「一緒に話してよ」とは言いがたい。千島列島の半分を要求したほうがいい?
美根:難しい。ですが、アメリカも当事者の一人として主張して欲しい。千島列島の20島に関してロシアに権利はないと言ってしかるべきなのです。ちょっと無茶な話に聞こえるかもしれませんが、日本は千島列島を放棄したけれど、今のロシアには本来権利がないはず。他国は千島列島に興味はなく、日本とロシアの2国しか興味がない。だったら本当は半分づつにしたほうがいい、というのが私の主張です。
木本:それはいいですね。大抽選会やって1島づつ選んじゃえばいい。
美根:1956年に日ソ交渉があって、そこで日本は4島返還を要求しました。そこから一歩も進展していないのに、4島のうちの2を返せという要求を覆して10返せというのは無茶ではあります。交渉において持ち出すべきではありませんが、ただ、千島列島問題の本質に立ち返れば、国後、択捉の2島は当然要求するべきものです。それが基本的な見方です。
エリツィンは日本を重視していた
美根:そしてもう1つ視点はプーチン大統領がいい交渉相手かということです。
木本:プーチンさんはトップダウンで決めてくれそうですけれど。
美根:ソ連が崩壊してエリツィンがロシア最初の大統領になりました。彼は日本を重視したし、北方領土を返す気がありました。意欲もやる気もあったけれど、残念ながら政治的な立場が不安定でした。ソ連が崩壊後の10年は経済がガタガタになり、国際会議で酔っぱらってふらついたりして、ひんしゅくを買ったりしました。政治的な力が足りませんでした。
木本:日本にとってはチャンスを逃したわけですね。
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