しかし、「大数の法則」が機能せず、保険会社でも想定できない事故が発生する場合もあります。たとえば、ロケット保険。いくらロケット打ち上げが世界的に増えつつあっても、まだ確率論が十分に働くほど数多くはありません。同じように、巨大な自然災害も大数の法則で予測しきれないリスクです。
このように、保険会社が得意とする確率論でもコントロールできないリスクをすべて洗い出し、再保険でヘッジしています。再保険の手配が漏れると、実際の事故が発生し場合には大変なことになってしまいます。巨額の損害を被ることになり、最悪の場合には保険会社が破たんしてしまうことになります。
保険会社が引き受けできるリスクの総量は「キャパシティ(保険引受余力)」と呼ばれています。キャパシティの小さな会社は、すぐに自社の引受限度を超えてしまいますから、保険販売を抑えて引き受けるリスクを制限せざるをえなくなります。
キャパシティを決めるのは、主にその保険会社の財務力です。つまり、お金持ちかどうかということです。財務力のない保険会社は再保険に依存しながら保険の販売量を調節して、少しずつ財務力を強化しながら大きな保険会社へ成長していきます。これが保険会社の通常の成長プロセスです。中小企業が銀行から融資を受けながら大きくなっていく過程と同じです。
このことは裏返せば、大きな金持ちの保険会社にば再保性の必要性が低い、ということです。日本の大手生保会社はその代表格で、ほとんど再保険していません。「金持ちには保険がいらない」という理屈は、保険会社自体にも当てはまるのです。
保険会社は必要最低限の保障を買っている
再保険は保険会社間のプロの取引ですから、内容は多種多様で技術的にも複雑です。ただ基本パターンはどれもシンプルで、そこにはいくつかの共通点があります。
まず、契約期間は通常1年です。毎年の更改期に契約内容を見直しながら、取引を長期にわたり継続するのが一般的です。また、リスクヘッジのための「保障」を買うことが目的ですから、一般の保険によく見られる貯蓄目的の要素はまったく見られません。そして、必要最低限の「再保険」をできりだけ安く買うために、免責額を最大限に取ることも共通しています。保険会社の抱えるリスク状況は絶えず変化していますから、見直しながら必要最低限の再保険を買っています。
再保険料は保険会社にとり大きなコストです。いかに必要最低限の保障額に絞り込むかが再保険担当者の腕の見せ所です。たとえば地震の場合、引き受けている地震リスクから、自社がこうむる損害額と、契約者に支払うことのできる保険金総額を計算します。損害額の予想が1000億円、自社で支払える保険金が200億円と計算されれば、200億円を超えて1000億円までの損害部分の保障を再保険で手当てしておきます。200億円までが免責になります。
ところが1000億円はあくまで想定上の数値です。現実には、それ以上の地震損害が発生する可能性もゼロではありません。そうした巨大災害が実際に発生してしまうと、保険金を払い切れずに破たんに追い込まれる危険性すらあります。それならもっと多くの保障を買っておけばよいのですが、他社との競争上、再保険に余分なコストをかける余裕はありません。
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