今なぜ台湾で「懐日映画」が大ヒットするのか

戦後70年、無視されてきた「人間の歴史」

私は映画「湾生回家」を台北市内の映画館で見たのだが、観客の年齢層が意外に若いことに驚かされた。隣に座った20代の女性は、映画の最初から最後まで、涙をハンカチで拭い続けていた。

「湾生回家」は一カ月以上も上映が続くという、台湾では珍しいロングランとなり、私が見に行った日も平日の午後というのにほぼ満席。11月21日に受賞発表式があった台湾アカデミー賞「金馬奨」でも最優秀ドキュメンタリー作品にノミネートされた。映画と同じタイトルの書籍も5万冊を売り上げ、「湾生」はにわかに台湾で注目される存在になった。

ドキュメンタリー作品は、実は台湾では根強いマーケットを持っており、しばしばドキュメンタリーがロードショーの映画館で上映され、「湾生回家」のように億超えのヒットとなることもある。台湾の人々が社会問題に対する高い関心を持っている背景もあり、また、優秀な人材がドキュメンタリー界にひしめいていることも関係しているようだ。

こういった環境が「ドキュメンタリーは単館上映」と相場が決まっている日本といささか違うのは確かだが、いずれにせよ、「湾生回家」は娯楽性とメッセージ性を兼ね備えた優れた作品だと高く評価されている。

戦後70年の節目に、新たに発掘された価値

湾生とは、どういう人々なのだろうか。

敗戦によって日本は台湾の領有権を放棄し、中華民国政府は日本人(当時台湾では内地人と呼ばれた)を全員、日本に帰す方針をとった。1949年までに日本人の帰還事業は完了。当時、台湾から引き揚げた日本人は軍民あわせて50万人と言われる。台湾生まれではなくても、台湾で長期にわたって少年期や青年期を過ごした人々も湾生である。

「湾生回家」の作品の価値は、激動の歴史を歩んだ台湾の近代史のなかで、「台湾から日本に戻ったあとも、台湾を忘れず生きてきた」という湾生の物語を、戦後70年という節目に新たに発掘したところにあるだろう。

台湾社会のなかで、1945年以降に台湾を去った日本人たちが、これほど台湾を深く懐かしみ、思い続けたことは、これまでほとんど語られなかった話だった。そればかりでなく、むしろ日本人は「台湾を捨てた」と広く受け止められてきた。

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