"コミュ下手"の蔡英文が総統選を制した意味 体育会気質の民進党で躍進したエリート学者

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台湾初の女性総統、その人物像に迫ります(写真:AP / アフロ)

台湾で初の女性総統になる蔡英文。その演説は、実に「面白くない」のである。面白くはないが、心に響かないわけではない。普通の政治家のようにテープレコーダーのような政治演説ではなく、自分の言葉で真面目に語っているからだ。

選挙最終日の15日の夜、総統府の前で5万人を前に選挙運動の最後を飾ったときも、「歴史的」と呼べるほどの圧勝を決めた16日の夜、当選の喜びを支持者の前で語ったときも、聴衆はおそらく、もっと扇動的で、もっと勝者らしい言葉を期待していた違いない。

しかし、蔡はあくまでも冷静で、感情を大げさに表さず、淡々と支持者に対する感謝と、「これからどうするか」を語ることに務めた。蔡英文らしい、としか言いようがない。まるで学生に向かって諭す教師のようだった。会場の隅で、遠くに小さく見える蔡英文の言葉を聞きながら、つい、苦笑いをしてしまった。

「廊下のはじっこをわざと歩くような学者だった」

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直接選挙を導入した1996年以来、台湾の総統ポストは良くも悪くも民衆とのコミュニケーションを得意とするタイプの政治家が勝ち取ってきた。

李登輝、陳水扁、馬英九。日本人にも馴染みのあるこの3人の誰とも、蔡英文は違う。かといって、官僚型というわけでもない。蔡英文は手堅く、粘り強く、ぶれない。見ていて面白くはないが、ハラハラ心配しなくていいとも言える。

優等生の超エリートであるが、当然、それだけの人物ではない。だからこそ総統に上り詰めたのであるが、蔡英文の魅力と能力は何かと問われると、彼女を8年ぐらい観察してきた今でも、うまく説明するのが難しい。

蔡英文は2011年に出版した自伝的本で、政治家になる前の自分について、こんなことを書いている。「しばらく前まで、廊下のはじっこをわざと歩くような学者だった。目立たず、安定した人生を歩める人間になりたかった」。

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