無茶な要求も「笑顔で対応」営業職を襲う"心の摩耗"の代償 『感情労働』のコストを企業はもはや無視できない
「突然辞めると言い出した。まったく予兆がなかった」
ある通販会社のコールセンター長が、エース級のオペレーターの退職に困惑していた。そのオペレーターはいつも落ち着いた声で顧客対応し、クレーム処理も見事だった。しかし退職理由を聞いても「自分には向いていないと思いまして」としか答えない。
コールセンター、販売員、飲食店スタッフ、客室乗務員、看護師、介護士、保育士、営業職、教師。これらの職場で優秀な社員が突然辞める現象が後を絶たない。彼らは肉体的な疲労とは異なる、深く重い疲れを抱えて職場を去っていく。その背後には「感情労働」という過酷なメカニズムが潜んでいる。
そこで今回は感情労働が社員を辞めさせる本当の理由について解説する。対人サービス業のマネジャーは、ぜひ最後まで読んでもらいたい。
感情労働とは何か
私はよくスターバックスを利用する。どの店のスタッフも笑顔で心地よい対応をしてくれるからだ。あの対応力がなければ、私はスタバを利用し続けたいと思わないだろう。つまりスタッフの感情そのものが「顧客提供価値」になっているのだ。
これが感情労働とも言える。
感情労働とは、1983年にアメリカの社会学者ホックシールドが提唱した概念だ。肉体労働、頭脳労働に次ぐ「第3の労働」と呼ばれる。
簡単に言えば「感情を管理して、適切な表情や態度を作り出す仕事」のことだ。単に仕事中に感情を使うということではない。職務を遂行するために、自分の本来の感情を抑圧したり、相手に合わせた感情を作り出したりする。演技で感情をコントロールする、と言えばいいか。
たとえば理不尽なクレームを受けて内心では怒りを感じていても、それを隠して笑顔で謝罪する。悲しい状況にある患者に対して、自身の動揺を抑えて冷静に寄り添う。これらはすべて感情労働の典型例だ。
販売員や飲食店スタッフは顧客に笑顔と親切を提供する。客室乗務員は安心感を届ける。看護師や介護士、保育士は思いやりと共感を示す。営業職は取引先に対し誠実さを演じ、教師は生徒に対して冷静さと情熱を使い分ける。
これらすべてが感情労働といえる。


















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