無茶な要求も「笑顔で対応」営業職を襲う"心の摩耗"の代償 『感情労働』のコストを企業はもはや無視できない
それにしても、なぜこのような「感情労働」が社員を疲弊させるのか?
精神的な摩耗によるバーンアウト(燃え尽き症候群)を引き起こすことがあるからだそうだ。
「表層演技」と「深層演技」という2つの手法
感情労働には「表層演技」と「深層演技」という2つの手法がある。
表層演技は、うわべだけの笑顔を作るなど、自分の感情とは無関係に振る舞うこと。深層演技は、自分自身の内面に働きかけ、本当にそのような感情を抱こうと努めることだ。
映画やドラマ俳優が、その役を演じ切るために、私生活の態度や姿勢、発言内容まで変えることがあるという。
多くの場合は、本人が自発的に行うことだと思うが、問題となるのは、この演技が組織によって厳格に管理されたときだ。
個人の聖域であるはずの感情管理が組織によって“支配”される。そのことで、労働者は「自分の感情が自分のものである」という感覚を持てなくなるという。これを「自己疎外」と呼ぶ。
「私はいったい、本当は何を感じているのか?」
自分の本当の感情と、職務として求められる感情との間にギャップが生じ続ける。そうすると、人は感情の制御ができなくなる。これがバーンアウトのプロセスである。
感情労働の負担をさらに重くしているのが、カスタマーハラスメント(カスハラ)だ。ある飲食店の店長から聞いた話がある。
「お前が作ったからマズいんだ。作り直せ」
60代の男性客が、20代の女性スタッフに怒鳴りつけた。料理に問題があるわけではない。単に気に入らないから難癖をつけているだけだ。女性スタッフは涙をこらえて謝罪し続けた。
「あの子、次の日から来なくなったんです」
店長は悔しそうにそう言った。
厚生労働省の調査によると、過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為を経験した労働者は約10%に上る。長時間の拘束、暴言、侮辱。これらを受けた従業員は「眠れなくなった」「仕事に行きたくない」と訴える。
カスハラは単なるクレームではない。暴力、脅迫、土下座の強要。こういった悪質な行為を指すのだ。
かつて感情労働のストレスは、顧客対応の中で生じる「感情の不一致」が主因だった。しかし今は違う。明確な悪意と攻撃性を伴うハラスメントが加わっている。
「お客様第一」を掲げるあまり、現場を守らない企業がある。そんな職場で働く従業員は、どう思うか。
「会社は自分を守ってくれない」
この絶望感が、離職を決意させるのである。


















無料会員登録はこちら
ログインはこちら