放射能汚染に見舞われた福島、安心を得られない県の健康調査、行政の対応に批判相次ぐ

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「内部被曝を軽視」、国や県の姿勢に批判も

内部被曝問題に詳しい矢ヶ崎克馬・琉球大学名誉教授も、県民健康管理調査のやり方を強く批判する。

前出の基本調査について矢ヶ崎氏は、「問診票だとしながら、事故直後にどこにいたかを尋ねるだけで健康状態を記入する欄すらない。県民の健康をおもんぱかっていない証拠だ」と指摘。「チェルノブイリ事故で明らかにされたのは放射性ヨウ素の内部被曝による小児の甲状腺がんだけ」とする県民健康管理調査検討委員会(山下氏が座長)の見解についても、「根本的に誤りだ」と批判する。

矢ヶ崎氏が指摘するように、ベラルーシやウクライナの科学者や医師は、チェルノブイリ事故で汚染された地域で多くの種類のがんや免疫不全、心筋梗塞が多発していると報告している。しかし、原子力を推進する立場の国際原子力機関(IAEA)や「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」(UNSCEAR)は、これらの調査報告を統計学的に有意でないと判断。日本政府や福島県もそれを踏襲してきた。「3割の子どもで嚢胞または結節」の事実についても、矢ヶ崎氏は「警告と受け止めるべきだ」と指摘する。

セシウムによる体内汚染について「放置できるレベルではない」と語るのが、市民グループ「福島老朽原発を考える会」で放射能測定を担当する青木一政氏だ。精密な測定器を持つフランスの市民団体に同会が委託した子ども(福島県や岩手県、千葉県などに在住)の尿検査では、今年に入っても事故直後と同等、またはそれ以上のレベルのセシウムが尿中から検出されている。政府傘下の放射線医学総合研究所はエビデンスを認めていないものの、セシウムによる長期被曝と、膀胱がん化リスクのある慢性膀胱炎との関係を指摘する調査報告もある。

放射能汚染による人体への影響は未知の部分が大きい。それだけに対策の遅れは禁物だ。福島県に必要なのは、県民の健康を守る覚悟だ。

(岡田広行 =週刊東洋経済2012年4月28日・5月5日合併特大号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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