また、サプライチェーンの持続可能性を測定する指標「ヒグ・インデックス」も広く利用されている。現行のツールはエネルギー使用、水使用、廃棄物などの環境負荷を数値化でき、各地域の気候リスクを踏まえた調達・生産拠点の評価に活用されつつある。
市場の動きも変化している。欧州では、気候変動で季節の境界が曖昧になりつつある現実を踏まえ、通年着られる商品を投入する「シーズンレス化」が広がっている。スペインの大手ブランド・マンゴが、軽量トレンチコートや通気性の高い素材の通年商品を展開しているのはその一例だ。
製造技術の革新も進む。水をほとんど使わない無水染色や、外部熱を反射する特殊素材の開発などは、製造段階での環境負荷を抑えつつ、着用時の暑熱対策にもつながる技術として注目されている。これらはまだ導入段階だが、「製造」と「消費」の両局面で極端気象のリスクを軽減しようとする試みといえる。
さらに、「ジャスト・レジリエンス(公正な強靭性)」という概念も重視され始めている。気候変動の影響を最も強く受けるのは屋外労働者や低所得層であり、衣服による適応策が一部の消費者にしか届かなければ、格差を拡大しかねない。適応策を推進する際には、誰がどのようにアクセスできるのかという社会的公正の視点が不可欠であることが、EU(欧州連合)の政策やファッション業界の議論で繰り返し指摘されている。
ワークマンの差別化と海外展開
XShelterによるワークマンの差別化は明確だ。寒暖差、高温、豪雨という3つのリスクを1着で束ねる設計思想に加え、防水圧や透湿度といった数値性能を前面に押し出す科学的なアプローチが際立つ。そして、作業者と一般生活者で機能を分ける用途別設計は、利用者の現実的な環境差に踏み込んだ戦略である。
展示会で登壇した同社の土屋哲雄専務は「豪雨時もバイクで通勤する台湾でも勝機がある。類似品が出ても、ここまでの高機能製品はできない」と胸を張る。スコールが頻発する台湾では、防水と透湿の両立が安全に直結する。模倣品が追随できない性能領域を押さえることで、海外展開においても優位性を発揮できるとみている。
XShelterは、衣服を「気候変動時代のインフラ」として再定義する挑戦である。普段着の延長線上で猛暑や豪雨から身を守れるという発想は、アパレル産業の役割を大きく変えつつある。
しかし、適応策だけでは限界がある。2025年8月の猛暑が示すように、気候変動の影響は今後さらに強まる可能性が高い。温室効果ガスの削減など緩和策を同時に進めなければ、リスクは拡大し続ける。
アパレル産業に求められるのは、気候に強い衣服を提供することと、製造過程での環境負荷を下げることの両立である。ワークマンのXShelterは、その方向性を先取りした試みだ。適応と緩和をどう結びつけるか──。それが今後、産業全体の競争軸となっていくだろう。
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