断熱素材にはαとβの2種類があり、「断熱α」は空気のような軽さとカサ高感を特徴とし、綿を組み合わせることで高い保温性を実現する。一方の「断熱β」は宇宙服の技術を応用した断熱シートで、伸縮性を備え、綿を入れなくてもマイナス10℃程度まで対応できる性能を持つ。外気が39℃でも衣服内を約30℃に保ち、寒冷環境下でも快適性を維持できるとされ、防寒着や冷感ウェアのように単機能にとどまらず、幅広い気候条件を一着でカバーする発想だ。

さらに、従来は相反する性能とされてきた防水性と透湿性を、極めて高い水準で両立させている点も大きな特徴である。
耐水圧は3万ミリメートルに達し、豪雨でも水を通さないレベルを確保する一方で、透湿度は9万グラム/平方メートル時とされる。これは一般的な登山用高機能素材が5000〜6000グラム程度であることを考えると桁違いであり、衣服内の水蒸気を効率的に逃がす性能を備える。
つまり、XShelterは豪雨を防ぎつつ、汗による蒸れを抑えることができ、「濡れない・蒸れない・動ける」という条件を同時に満たしている。通勤や屋外作業を完全にやめられない現実を踏まえれば、これは極めて実用的な適応策といえる。
また、用途別の設計も導入されている。発汗量の多い作業者には湿度応答型の「湿度パンツ」、都市生活者には体感温度に反応する「温度パンツ」を提供し、利用者の置かれた環境に応じて機能を分けている点が合理的だ。猛暑日に「温度パンツ」をはいてみたが、いつもよりも過ごしやすかった。
極端気象が常態化する地球
ワークマンのこうした取り組みの背景には、極端気象の常態化がある。
世界的には2024年が観測史上最も暑い年となり、直近10年連続で「最暖年」が更新された。日本でも2025年8月、全国各地で40℃前後を記録する日が続き、群馬県伊勢崎市では国内の過去最高気温となる41.8℃を観測した。猛暑の影響で、熱中症による搬送者数は前年の2倍以上に増加し、社会生活や経済活動にも影響が出た。
一方で、短時間強雨の発生頻度は観測統計上、長期的に増加傾向が明瞭であり、線状降水帯による豪雨災害も全国で繰り返し発生している。気候変動は「平均気温の上昇」にとどまらず、極端現象の頻度増加という形で、人々の暮らしや経済活動に直接影響を及ぼしている。
気候変動への適応は、ワークマンだけの課題ではない。国際的には、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のもとで2018年に策定された「ファッション業界気候行動憲章」があり、H&Mやナイキなど主要ブランドが署名している。この憲章は、2050年までの温室効果ガス排出実質ゼロを目標とし、排出削減に加えてサプライチェーンのレジリエンス(強靭性)強化を課題として掲げている。
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