〈全国初の光景〉広島電鉄が不仲説までささやかれたJR西日本と難題を乗り越え実現、「広島駅ビル2階への路面電車乗り入れ」の内幕
まるでジェットコースターのように、路面電車がビルの中へ吸い込まれる──。
自動車が行き交う一般道路に敷かれた軌道を走っていた路面電車が、信号待ちの後に高架を勢いよくのぼっていく。車両は2階の高さまで達し、そのまま駅ビルの中に入っていった。この光景は、日本の路面電車で最大規模を誇る広島電鉄が成し遂げた「進化」の象徴だ。
広島電鉄は2025年8月3日、「駅前大橋ルート」(広島駅―稲荷町―比治山下間)の新線を開業させた。さらに、メインターミナルである広島駅停留場(広島駅)を、地平からJR西日本の広島駅ビルの2階へと移転させたのだ。駅ビルの2階に高架で路面電車が乗り入れるのは、全国でも初めてのことだ。
かつて東急の玉川電気鉄道(1969年に廃止)が東京・渋谷の駅ビル2階に乗り入れていた時期があった。だがこれは自社ビルであり、かつ渋谷川によってできた谷がある渋谷の地形を利用したものだった。高架でわざわざ持ち上げた今回のケースとは構造的に異なる。
3者の連携で「奇跡の空間」に
広島電鉄の広島駅停留場があった広島駅南口広場の再開発は14年に基本方針が定まった。その方針に沿って広島駅ビルは、ホテルや商業施設が入る地上20階・地下1階のビルへと生まれ変わり、今春開業した。
この大規模な駅前開発プロジェクトは、広島電鉄だけではなく、JR西日本、そして広島市という3者による共同事業である。事業はそれぞれの利害関係を乗り越えて成立したもので、広島電鉄・駅前プロジェクト推進部の八木秀彰課長は広島駅ビル2階の空間を「奇跡の空間」と表現する。
実はかつて、JR西日本と広島電鉄は「仲が悪い」と見られていた。「混雑時のトラブルや〝領地〟の問題などをめぐり、現場レベルではいがみあうこともあった」(地場の鉄道関係者)と言われる。



















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