フランスはユーロ圏にとってお荷物なのか 構造改革の行方次第では沈滞脱出に貢献も

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フランスは国内総生産(GDP)に占める政府支出の割合が57%と高く(ドイツは同44%)、公共医療サービスは英国よりずっと評判がよい。フランス国民は多額の税金を払い、厳しい規制に縛られているとはいえ、その見返りを手にしている。しかし、大きすぎる政府は真のダイナミズムを生み出す源とはなりえない。

もとからのフランス人労働者を移民から守るために設けられた厳格な解雇規制法と高水準の最低賃金が、移民が職を得るハードルをさらに高くしている。しかしグローバルな不平等に関する研究が示唆するところでは、労働力の流入を許容することで得られる利益は、もともとの国民だけで所得を再分配した際の利益よりも大きい。米国や英国では、労働法がリベラルであるほど、国外から来る人たちにチャンスが開かれている。

パリをはじめとするフランスの都市の中心部はすばらしいが、北アフリカなどからやってくる多くの移民は、郊外のむさ苦しい居住区に住んでいる。特定の民族集団についての正確な失業率は不明だが(フランス法は民族分類別のデータ収集を禁じている)、事例を検証すると、移民とその子孫の失業率が極めて高いことがうかがえる。

強み生かすには構造改革が不可欠

反移民を掲げるルペン氏の政党・国民戦線への支持が国民の間で高まっている。これはシリア難民の受け入れにフランス国内で反発が強まっていることと相まって、フランスモデルを多様な社会に適用することの問題点を示唆している。

フランスには独自の強みがある。第一に、フランスのエリート管理職は、世界でトップクラスだと広く認められていて、国際的大企業を率いる役職に選任されることが多い。

第二に、汚職は確かに問題だが、ユーロ圏南部のほとんどの国々と比べれば、ずっとましだ。第三に、フランスはほぼ間違いなく、世界でもトップクラスの自然環境に恵まれている。肥沃な土壌と非常に温暖な気候に恵まれているのだ。

そんなフランス経済が健全化すれば、ユーロ圏が沈滞から脱するのに驚くほどの効果を発揮するだろう。しかしそのためにはフランス政府が、必要な構造改革に積極的に取り組むことが大前提となる。

週刊東洋経済10月31日号

 

ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授

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Kenneth Rogoff

1953年生まれ。1980年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。1999年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001〜03年にIMFのチーフエコノミストも務めた。チェスの天才としても名を馳せる。

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