役割を終えたEUはこれからどうなるのか 「欧州解体 ドイツ一極支配の恐怖」を読む

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EUが現在の形で存続する意義はない(写真:artjazz/PIXTA)

抜本改革か、自滅かの岐路に立つEU

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ギリシャの経済危機は欧州安定メカニズム(ESM)の支援で救済されることになったが、これで危機が克服されたのではない。この事態はユーロ危機であると同時に、欧州連合(EU)の危機を告げるものだ。

英国の有名なエコノミストである著者は、かつて『デフレの恐怖』の執筆を通じいち早くデフレ時代への移行を予測した。本書では発足時にまでさかのぼってEUの歴史、その政治制度、経済制度の構造を解明すると同時に、それが持っている問題点、矛盾を解明している。

1957年に欧州経済共同体(EEC)として、フランス、ドイツ、イタリアなど6カ国でスタートし、やがてEUとなり、さらにほとんどの国が共通通貨ユーロを採用するまでに至った。しかし、それは本来的に内部に矛盾を抱えたものであった、と歴史的に詳しく解説している。

そして著者は、EUはそもそも非民主的な組織であり、改革か解体か、または国によっては離脱が必要になっている、という。とりわけ英国は「EUからの離脱を準備すべきだ」と主張する。

世界の国内総生産に占めるEUのシェアは低下しつつあり、今後もさらに落ちていくだろう。さらに2015年1月にギリシャ危機は新たな段階に入ったとして「贈り物をせがむギリシャにご用心」とさえ記述する。

もともとEUの前身であるEECが構想されたのは米ソ冷戦時代であり、その中で完全な政治同盟としての「欧州合衆国」を目指したのだが、その役割はもはや終わっているようだ。

世界経済の主役が今や中国やインドに移ろうとしている中で、EU自体は根本的に改革するか、あるいは自滅する以外には行く道はない、と結論づける。大いに説得力ある論調で納得してしまった。

著者
ロジャー・ブートル(Roger Bootle)
英国シティの著名エコノミスト。欧州最大の経済調査会社キャピタ ル・エコノミクスの創業経営者。英オックスフォード大学に学ぶ。 著書『デフレの恐怖』でデフレ時代の到来を予測した。英デイリー・ テレグラフ紙にコラムを定期執筆している。

 

奥村 宏 会社学研究家
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