インテルを創った「天才3人」の葛藤 半導体産業を率いた業界トップの軌跡

✎ 1〜 ✎ 50 ✎ 51 ✎ 52 ✎ 53
拡大
縮小
インテルを語りながら、米国現代ビジネスの素顔をくっきりと浮かび上がらせる(撮影 : 今井康一)

くっきり浮かび上がる 米国現代ビジネスの素顔

『インテル 世界で最も重要な会社の産業史』書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

現代社会に欠かせない、エレクトロニクス産業の基礎を築いたインテルの、傑出した3人のCEOの才能と個性を通して、企業とは、経営とは、研究・開発とは、競争とは、そしてリーダーとは何かを鮮やかに描いた「産業史」の傑作である。

現代技術の進化の象徴ともいえる「ムーアの法則」(コンピュータ・チップの性能は1年半から2年ごとに2倍になる)を唱えたゴードン・ムーア。彼は出会った人々を魅了し敬愛された。女性を含め皆から愛されたロバート・ノイスは、インテルを率いた傑出した技術者でありリーダーだった。そしてホロコーストと共産主義という二つの狂気と圧政から脱出した、先見性、決断力、強い意志に富むアンドレー・グローブ。この3人のCEOが織りなす、半導体産業の中心であり続けた企業の陰影は、それぞれの存在が欠かせないものとして、原題にある「TRINITY」(三位一体)と言うにふさわしい。

紹介されている、ムーアによる1965年の技術の予測には、携帯、自動車の自動制御、電子腕時計など並んでいるが、彼らの卓越した先見性に驚く。

膨大な本書から溢れてくる「物語」は、素晴らしい翻訳も手伝って、さまざま場所で読者を立ち止まらせる。会議とはどういう場か。ビジネスの場で怒りはどのようにして克服(発散)するのか。個人と企業による困難への立ち向かい方。そして何よりも大きな失敗からの学び方だ。友情、確執、勝利、敗北、そして理解。登場人物の日々は読者の日々と重なるだろう。

インテルを語りながら、シリコンバレー(まさに半導体の谷)の始まりとその後の発展をスケッチし、それによって米国(そして世界)の現代ビジネスの素顔をくっきりと浮かび上がらせる傑作である。

著者
マイケル・マローン(Michael S. Malone)
米サンタクララ大学非常勤教授。米ウォールストリート・ジャーナルにインテル担当として長年にわたり定期寄稿。米サンノゼ・マーキュリーニュースでの調査報道でピュリッツァー賞候補に2度選ばれる。サンタクララ大学でMBAを取得。

 

中沢 孝夫 福井県立大学名誉教授

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

なかざわ たかお / Takao Nakazawa

1944年生まれ。博士(経営学)。ものづくり論、中小企業論、人材育成論を専門とする。高校卒業後、郵便局勤務から全逓本部を経て、20年以上の社会人経験を経た後に45歳で立教大学法学部に入学を果たす。1993年同校卒業。1100社(そのうち100社は海外)の聞き取り調査を行っている。著書に『転職の前に―ーノンエリートのキャリアの活かし方』(ちくま新書)。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT