ビジネスの成功者はヒーローと悪人のどちらにより近いのか。経済学者のシュンペーターとその一派は起業家を「創造的破壊の強風」をもたらす英雄、成長のエンジンと考えた。
これとは対照的に、エンゲルスの『イギリスにおける労働者階級の状態』は、労働者を貧困ばかりか劣悪な労働・生活環境に追い込む存在として、実業家をこき下ろしている。エンゲルスとマルクスは後に、実業家の二面性を彼らの資本論の根幹の1つに据えた。冷酷な実業家は労働者を搾取するが、イノベーションと成長も解き放ち、社会を根本から変える、というものだ。
企業経営者をヒーローと悪人のどちらかと見なすのが浅はかなのは言うまでもない。私たちの多くと同様、経営者も大抵は善と悪の両方を抱えている。
経営者を英雄とみる俗説
現在、慈善事業や大学などと関連づけられている人物の多くは、元はといえば19世紀後半〜20世紀初頭の悪徳資本家だった。ロックフェラー、カーネギー、バンダービルトといった実業界の巨頭は、競合他社を威圧・買収して業界を独占、価格を吊り上げるのに良心の呵責を覚えることのない人々だった。無謀にも賃上げや労働条件の改善を求める労働者には、どこまでも残忍な仕打ちで応じた。
米スタンフォード大学の創設者、リーランド・スタンフォードはおそらくもっと悪質だった。計略で鉄道利権を手に入れ、代価を国民の税金で支払わせた。中国人移民を酷使して財を成すと、今度は政治家となって公金を利己的に動かし、先住民を暴力で排除。自身の成功に欠かせなかった中国人移民に対する憎悪をたきつけもした。
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