気候変動による大災害が世界各地で相次ぐ2022年だが、とりわけ厳しい被害に見舞われているのがパキスタンだ。大洪水で国土の3分の1が水没し、1400人を超える死者が出ている。だが、勘違いしてはならない。これは単なる「天災」ではなく、高所得国が働いた悪事の結果でもある。よって高所得国は、経済的に大きな責任を負わなくてはならない。
パキスタンの洪水は人類が引き起こした気候変動と明白に関連づけられる。損失は甚大だ。被害額は初期の見積もりで300億ドル(約4.3兆円)を超える。飢餓、疫病、貧困はこれから深刻化し、復興費用も巨大なものとなろう。仮に被害の究極的な原因の半分が気候変動にあるのだとしたら、気候変動による損害は150億ドルとはじかれる。
そこで問題となるのは、その責任配分だ。世界の現在の取り決めの下では、今回の洪水による経済的な損失はほぼ全面的にパキスタンがかぶることになる。なるほど、米国とカナダはそれぞれ約5000万ドルと500万ドルの支援を約束しているし、他国も支援に加わることになるとみられる。が、こうした支援金が全体で1.5億ドルに達したとしても、先述した150億ドルの1%にしかならない。
ここで、別の責任配分方法を考えてみたい。気候変動に対する各国の責任割合を基準とするやり方だ。損害賠償責任の算定手法としては、米国をはじめとする多くの国々で、こうしたやり方が一般的に用いられている。例えば、ある地域が工場により汚染された場合、その地域の住民は集団で損害賠償請求訴訟を起こすことができる。
災害を輸出する先進国
高所得国は汚染物質を垂れ流す工場に近い。「世界気候裁判所」のような機関が存在すれば、パキスタン政府は、米国などを相手取って温室効果ガスの排出を抑制しなかった責任を問える立場にある。しかし、世界気候裁判所が現時点で存在しない以上、各国政府は気候被害を受けた国々に対し、それぞれの賠償責任に応じた補償を自発的に行うべきだろう。
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