ブラジルの大統領選挙で現職のボルソナロ氏は、トランプ前米大統領と同じ「大ウソ」をつくり出そうとしている。自らが負ける選挙はインチキだと主張し、暴力をたきつけてでも権力の座に居座ろうとする例の戦略だ。
「熱帯のトランプ(ボルソナロ氏)」がトランプ氏をまねるのは驚くことではない。だが選挙結果を受け入れるのは、民主主義の最も基本的な要素の1つだ。選挙結果の否定が新たな世界的潮流になりつつあるのだとしたら、私たちはその理由を問わなくてはならない。なぜこれほど多くの市民が「選挙はインチキだ」と叫ぶインチキな指導者を受け入れようとするのだろうか。
劣勢のボルソナロ氏
ボルソナロ氏と対決する左派のルラ元大統領の人気は高い。世論調査の支持率でも一貫してリードを保っており、極右のボルソナロ氏は敗色が濃厚だ。とはいえボルソナロ氏は、そうした選挙結果を受け入れないよう、支持者を調教するのに何年も費やしてきた。
中でも不気味なのは、2000年から用いられ広く信頼されている効率的な電子投票システムに不信の種をまいていることだ。21年1月6日の米連邦議会襲撃事件を受けて、ボルソナロ氏はこう警告した。電子投票を続ければ「米国より大きな問題になる」。
実際、選挙に負けたポピュリストは「インチキだ」と叫ぶことが多い。というのは、われらこそが、そしてわれらだけが「真の国民」、つまり「声なき多数派(サイレント・マジョリティー)」の代表だと言い張ることが支持を訴える基盤のすべてとなっているからだ。