経営者を英雄とみる俗説は、近頃ではあまりはやらなくなっている。米ジョンソン・エンド・ジョンソンはかつて消費者保護のために問題のある製品を積極的に自主回収して称賛された会社だが、発がん性物質に汚染されたベビーパウダーを販売したとする訴訟に直面。賠償責任を免れようと、怪しげな法的手段を用いるようになっている。
石油メジャーは過去何十年と気候変動を否定し世の中にデマを植え付けてきたにもかかわらず、今では環境保護活動に真剣なふりをするようになっているが、いかにも子供だましだ。
グーグルが捨てた掟(おきて)
そして、ご存じのテクノロジー業界である。同業界には理想主義のアウトサイダーとして出発した起業家が多く、米グーグルでは「悪になるな」がモットーになっていた。ところが「巨大テック企業(ビッグテック)」は今や、市場独占、消費者操作、租税回避など、各種問題行動の同義語となっている(グーグルは2018年、自社の行動規範の序文から「悪になるな」を削除した)。
テック業界の巨人は自社の独占的地位を強化しようと、過去何年にもわたって新規参入企業を買収したり、製品やサービスをそのままコピーしたりすることを繰り返してきた。その明白な証拠が、米フェイスブック(現メタ)によるインスタグラム(12年)とワッツアップ(14年)の買収だ。これらの買収は潜在的な競争相手を潰したいという経営トップの願望が動機となっていたことが、後に内部文書から明らかとなっている。
幸い、企業の悪のいくつかは矯正不能なものではない。19世紀末の悪徳資本家から現代の悪徳経営者に至るまで彼らが悪に手を染めた理由を調べると、問題行動をしっかりとチェックする仕組みがなかった、という共通項が見えてくる。よき企業行動とよきイノベーションを引き出すには、正しい制度環境と正しい規制が必要だ。
悪辣な企業行動の多くは防げるものであるにもかかわらず、それが繰り返されているのは悲劇といえよう。暴走を止めるガードレールとイノベーションを引き出す報酬(アメ)を適切なバランスで用意するには、まず起業家を英雄と見なす俗説を捨てなくてはならない。「創造的破壊の強風」は自動的に吹くものではないのだ。
(C)Project Syndicate
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