「ポケモンとドラゴンクエストがバチバチ」「でも他のタイトルも侮れない」 人気コンテンツが続々参入の位置ゲー、大混戦の”本質的な理由”

実は日本は「位置ゲー大国」なぜ?
「Pokémon GO(ポケモンGO)」「ドラゴンクエストウォーク」「モンスターハンターNow」「信長の野望 出陣」……スマートフォンの機能を使用した「位置情報ゲームアプリ」(いわゆる“位置ゲー”)界隈の競争は、意外と激しい。
そして、位置ゲー・スマホゲームは、「ポケモン」「ドラゴンクエスト」などのアニメ・ゲームが絡み、「ロングランコンテンツの代理戦争」といった様相を見せている。


その中でも急成長を遂げているのが、「歩くことでゲームを進行させる」スタイルの位置情報ゲーム(通称「位置ゲー」)だ。
2016年にリリースされた「ポケモンGO」、2019年リリースの「ドラゴンクエストウォーク」が2大勢力を形成、ここに先述の「モンスターハンターNow」「信長の野望 出陣」や、「ピクミンブルーム」「Disney STEP」「ハリー・ポッター:魔法同盟」「妖怪ウォッチワールド」などが参入している。
さらに、2強の登場前からあった「Ingress」「駅メモ!-ステーションメモリーズ!」の人気も衰えていない……皆様がプレイしたことのあるゲームは、この中にあるだろうか?

各タイトルとも「バトル要素強め」「各スポットでのランドマーク収集」「ユーザー同士の交流」など、それぞれの特徴があり、すみ分けている……かと思いきや、一人が何個も位置情報ゲームをプレイするわけにもいかず、そう何タイトルもインストールされない。実質的な「位置ゲー同士のパイの奪い合い」が繰り広げられているといっていいだろう。
スマホゲームの中でも後発の部類に入る「位置情報ゲーム」は、なぜ多くの人々にプレイされ、競争が発生しているのか。普通のスマホゲームとの競争は発生しないのか?「株式会社ポケモン」「スクウェア・エニックス」や「コロプラ」「ナイアンテック」「スコープリー」など、多くの企業やビジネスパーソンを巻き込んだ位置ゲー界隈の勢力図を、ちょっとだけ見渡してみよう。
位置ゲーは「世界シェアの半分が日本」納得の事情
ここで注目したいのが、「位置ゲー」普及が、ほぼ日本独自のものであること。実は、世界の位置情報ゲームの収益は日本がほぼ半分(49.5%)を占めており、2位のアメリカは27.9%、3位以下のドイツ・台湾・イギリスはすべて3%以下。
全体としては12億ドル(2000億円弱)を超える巨大なマーケットにもかかわらず、シェアと人口比の食い違いが激しいのだ(Sensor Tower調べ)。

要因としては、日本が他国に比べて「電車・バス・徒歩移動が日常的」であり、距離稼ぎでプレイを進行させやすかったことだろうか。他国だとクルマ・高速鉄道での移動が多く、車内で操作できたとしても、GPSで検知できるような速度ではなく、なかなか距離を稼げない環境だ。
さらに、日本にはなじみ深い「ポケモン」「ドラゴンクエスト」といったコンテンツを題材にしたことも、爆発的な普及を呼び込んだ。ここの2作はアニメ・漫画などの垣根を越えて展開されており、ゲームとしても世代間の共通言語と言えるほどに浸透している。だからこそ、位置情報ゲームの2強はリリース当初から一斉にインストールされたのだ。

そして、位置情報ゲームのプレイスタイルが「他のゲームと掛け持ちできる」プレイスタイルであったことも、普及を後押しした。一般的なスマホゲームのプレイは一般的に21時台以降にゲームのプレイ時間が長くなるが、位置情報ゲームの場合は午前8時台・12時台にプレイ時間が増加、夜には減る傾向にある。「日中の歩く時間には位置ゲーで距離稼ぎ、夜は帰宅後に他のゲーム」といった具合で、すみ分けができているのだ。
スマホゲームのヒットの要因は「スキマ時間をいただくこと」、位置情報ゲームのヒットの要因は「移動時間をいただくこと」とも言われる。こうして、一般的なスマホゲームのヒット作(近年だと「モンスターストライク」「崩壊:スターレイル」「ウマ娘 プリティーダービー」など)と共存共栄できているからこそ、位置情報ゲームはユーザーを獲得できているのだ。
「ポケモンvsドラゴンクエスト」位置ゲー界で差がついた要因は?

さて、位置ゲー業界の大混戦、「ポケモンGO」「ドラゴンクエストウォーク」は、どちらが勝者なのか?
実のところ、「混戦模様ではっきりしない」としか言いようがない。ダウンロード数では「ポケモンGO」がトップと報じられているものの、先に述べたSensor Towerの資料では「ドラゴンクエストウォーク」が3億ドルを売り上げており、2位の「ポケモンGO」を引き離し、位置情報ゲーム界隈ではトップに立つ。
ドラゴンクエストウォークは「月間滞在時間10時間以上が3割以上」とヘビーユーザーが多く、しっかり収益に繋げている印象がある、その要因は、「手放し・放置で安全にプレイできる環境を作れた」こと、「日本向けの運営ができた」ことにありそうだ。

ポケモンGOはプレイの基本動作は「歩く→ポケモンにボールを投げて捕獲→ゲットで経験値アップ」であるために、スマホに目線を落とす時間がどうしても長くなる。かつ、レアポケモンを探す作業が出現場所に急ぐプレイスタイルを生み、”ながら運転”でポケモンを獲りに行ったプレイヤーの人身事故で、世間の風あたりは強くなった。ゲームを運営するナイアンテックは画面上で警告を出したくらいで、有効な対策をとれていたとは言い難い。
一方で「ドラゴンクエストウォーク」は「全滅すると所持金(ゴールド)半分」という伝統的なスタイルをあえて導入せず、フルオートでバトルしても「死に放題、生き返り放題」。スマホをポケットに突っ込んで歩いても経験値が上がるスタイルを作り上げた。ゲームとしての縛りを緩くして手ブラ操作を実現したことが、忙しい社会人ユーザーを獲得できる要因ともなったのだ。

また、ポケモンGOは行動範囲の広いアクティブユーザー獲得を目指して「リアルイベント」を開催したものの、「交通集中でまち全体がパニック」「電波障害でスマホが満足に使えない」といった事態を引き起こし、絶大な経済効果がネガティブなイメージに打ち消された感がある。
一方で、ドラゴンクエストウォークも第1回のリアルイベントでは問題が多かったものの、2回目以降の開催では移動中継局の設置・チケット制による人数管理など次々と対策を施し、大きな問題を引き起こさなくなった。
こういった問題点を機敏に修正するのは当たり前の話で、全般的なゲーム改善に腰が重かった「ナイアンテック」と、日本のゲームユーザーを熟知したうえで機敏に修正した「スクウェア・エニックス」といった体制の違いが、差をつけられる要因になったように見えてならない。
順調にゲームを運営できているとは言い難かったナイアンテックも、2025年には「ポケモンGO」「モンスターハンターNow」などの位置情報ゲームを事業部や開発部門ごと、アメリカのスマホゲームメーカー「Scopely(スコープリー)」への売却を発表した。度重なる不手際でプレイヤーとの間に溝ができてしまった「ポケモンGO」が体制変更でよみがえるか、要注目だ。
ゲームハードからスマホアプリへ 次世代に残るための「コンテンツ代理戦争」

いまの位置情報ゲームは、「ポケモン」「ドラゴンクエスト」のような、アニメやゲームとしてヒットしたコンテンツをベースにする場合が多い。なぜか? それは「徒歩への動機づけになる」ことが大きいだろう。
歩くことが健康に良いと分かっていても、無機質な万歩計に指示されるより、「ピカチュウと一緒に散歩できる」「選ばれし冒険者として旅ができる」といった理由があれば、1万歩、2万歩と歩けてしまうから不思議だ。他国よりRPGゲームが好まれる日本では、歩くことに理由やストーリーを与える「位置情報ゲーム×ヒットコンテンツ」は、ほぼ不可欠だろう。
そして、コンテンツを発信する側には、「ロングヒットコンテンツの生き残り戦争」という側面を持つ。子供のころから作品に慣れ親しんだ世代は大人になっており、この層をゲームの世界に呼び戻し、その子供たちにコンテンツを愛してもらうには、「スマホゲーム」という新たなプレイ環境を用意するほかはないのだ。
位置情報ゲームに限らず、過去のヒット作をベースにしたスマホゲームは、こういった背景で多数リリースされる。ポケモンなら「Pokémon Trading Card Game Pocket(ポケポケ)」「ポケモンユナイト」、ドラゴンクエストが「星のドラゴンクエスト」「ドラゴンクエストタクト」などで、スマホ世代が作品に触れる入り口となるアプリを、リリースし続けているのだ。
今後の位置ゲー業界、2強に対抗するアプリは現れるのか?

さて、「ポケモンGO」「ドラゴンクエストウォーク」に続く、位置情報ゲームのヒット作品は現れるのか……その前に、先に述べたゲームのうち「ハリー・ポッター:魔法同盟」「妖怪ウォッチワールド」「どうぶつの森 ポケットキャンプ」などは、すでにサービスを終了(サ終)している。
たった4年で“サ終”となった「妖怪ウォッチワールド」は、マーケティングを読み誤った感がある。他プレイヤーに「ヒョーイ(憑依)」できるアイデアは斬新だったものの、母体となる作品「妖怪ウォッチ」が知られるようになった2013年ごろから作品の歴史が浅すぎて、幼児・小学生メインであったファン層が大人になっていなかったのだ。
また、ナイアンテックの「MARVEL World of Heroes」、スクウェア・エニックスの「キングダム ハーツ」をベースにした位置情報ゲームのように、開発中止となったケースもある。ナイアンテックは2023年1月のリリースの「NBA All-World」(歩いてNBA選手をスカウトするゲーム)が年を越せずにサービス終了に追い込まれるなど、ポケモンGOに次ぐゲームを育てられなかったことが、事業部ごとの売却・撤退に繋がった感がある。
今のスマホゲーム開発費用は「1作数十億円、画像が美麗なハイエンドゲームは数百億円」と高騰、一方で販売面ではスマホゲーム自体が業態として頭打ちで、中国発のアプリとの過当競争で売り上げを獲れない。
「投資は高額、競争は過当、リリースできなければ1円も入らない」というリスキーなゲーム業界で、2強がほとんどのシェアを占めてしまった位置情報ゲームを新たに制作するというリスクを負う企業は、そう現れないのではないか。
サイバーエージェント、衝撃の「うまぴょい決算」スマホゲーム業界、夢は終わらない

世界のスマホゲーム市場は10兆円規模と言われており、2021年にCygames(サイゲームス)からリリースされた「ウマ娘 プリティーダービー」が40%以上の営業利益率を記録、親会社であるサイバーエージェントの決算を押し上げるような成功例も。スマホゲーム業界じたいの“一攫千金ドリーム“は、まだ終わっていない。
その中で、位置情報ゲームの次なるヒット作は現れるのか? 「ポケモンGO」「ドラゴンクエストウォーク」よりもワクワクできるのか? プレイしながら、業界の推移を見守りたい。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら