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日銀「利上げ後ズレ」どころか仕切り直しで円安は1ドル145円台...“賃金と物価の好循環”のロジックが崩れた要因はトランプ関税だけではない

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植田総裁が認めた“誤算”はトランプ関税と無関係(撮影:尾形文繁)

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日本銀行は4月30日〜5月1日の金融政策決定会合で政策金利(無担保コールレート翌日物)を0.5%に据え置いた。トランプ関税を受け、展望レポートで経済・物価の見通しを引き下げた。

会合後の記者会見で植田和男総裁は「各国の通商政策をめぐる不確実性が極めて高い状況だ」と述べ、予断を持たずに事態を注視する姿勢を示した。

見通しの前提としては、各国間の交渉がある程度進んでも無視できないレベルの関税が残るものとし、実質GDP成長率を前回1月の展望レポートから2025年度で0.6%ポイント(1.1%→0.5%)、2026年度で0.3%ポイント(1.0%→0.7%)引き下げた。物価上昇率は成長ペースの鈍化により押し下げられた後、回復する経路に修正した。2026年度には2%を割る見通しだ。

2%物価安定の目標達成時期について「見通し期間の後半」との表現は前回1月と同じだが、見通し期間は前回の2026年度までから今回2027年度までに延びており、達成時期を1年程度先送りしたことになる。

今後の金融政策について、日銀は「実質金利が低いことをふまえ、(経済・物価の)見通しが実現していくとすれば、引き続き政策金利を引き上げる」との従来の利上げに積極的なタカ派姿勢を維持したが、市場では「見通し実現が遅れれば利上げも遅れる」と利上げに消極的なハト派的に受け止められた。

会見で植田総裁は「必ずしもそう(利上げが後ズレ)ではない」「どのタイミングで(利上げを)判断できるかは難しい」と断定を避けたが、利上げ観測が後退し、為替市場では5月1日の1ドル143円から円安が進行。会見終了時に1ドル=144円台後半に達した。日米金利差の拡大を受け、5月2日は145円台で推移している。

消えた「好循環」

「単に利上げペースが緩やかになるのではない。事実上の利上げ一時停止宣言だ」。会見を受けて、木内登英・野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストはよりハト派に予想を修正した。

日銀が物価判断で重視する「基調的な物価上昇率」について、植田総裁は会見で「足踏み状態」「伸び悩む」と見通しを表現。下振れリスクも認めた。「今までの金融政策の正常化を支えてきた前提が揺らぐ」と木内氏。単に時期が後ズレするだけではなく、利上げ路線のロジックが崩れたとみる。

「基調的な物価上昇率」とは、一時的な要因での上振れを除いた物価の動きを指す。足元ではコメ高騰などを受けて消費者物価上昇率が再び3%を超えているにもかかかわらず、日銀が「2%目標達成」と認めないのは、この「基調的な物価上昇率」がまだ2%に達していないとみるからだ。1つの指標では決め打ちできないとし、企業や家計の予想物価上昇率を重視する。

一時的要因で上振れた消費者物価上昇率が2%まで下がる一方、基調的な物価上昇率は徐々に2%まで上がっていく――日銀はそんな未来予想図を示しながら、昨年3月に異次元金融緩和を終了して以降、昨年7月、今年1月と利上げしてきた。それはトランプ関税で白紙となった。

同時に崩れたロジックが、人手不足を背景にした「賃金と物価の好循環」だ。従来、展望レポートに登場してきた文言が、今回の展望レポートからは抜け落ちた。関税により企業収益が下振れし、賃金も物価も上昇率が下振れすると想定する。もはや“好循環”とは呼べない状況だ。

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