
第1次政権から第2次政権に至るまでトランプ政権に通底している問題意識は「貿易赤字は悪。これを解消するためにドル安が必要。それと整合的に米金利も低いほうがよい」というものである。
相互関税は一律10%に上乗せした分が90日間停止されたが、読んで字の如く「これでお互い様になる」という意図が込められているようで、一歩進んだ解釈をすれば「これで貿易赤字が解消に向かう」という期待も含まれていそうだ。
日本に24%など各国に上乗せした計算根拠は、既報の通りデタラメそのものであり、その意味を考察する必要はないが、「関税をかければ相手国からの輸入価格が上がるので輸入数量は減る。その分、貿易収支は改善する」という発想があるのは間違いない。
こうした発想を理論的に検証するのがマーシャル・ラーナー条件という考え方になる。今回はこの点に沿って議論を進めてみたい。
貿易赤字が改善する条件とは
理論的に「為替レートの変動に対する貿易収支の変動」はマーシャル・ラーナー条件が成立しているかどうかで評価される。
マーシャル・ラーナー条件は「輸出と輸入の価格弾力性の合計が1より大きければ、通貨安は貿易収支を改善する」と規定する考え方だ。ここで価格弾力性とは「価格が1%変わったときに、どれくらい量(ここでは輸出入の量)が変わるか」という敏感度合いを示す数字である。
たとえば「自動車の価格が10%下がったとき、売れる量が3%増えた」という場合、価格弾力性は0.3である。マーシャル・ラーナー条件が検討するのは「自国通貨が安くなって、輸出品が安く見えると、外国がどれだけ買ってくれるか」という輸出の価格弾力性(A)と「自国通貨が安くなって、輸入品が高くなると、自国民がどれだけ輸入を減らすか」という輸入の価格弾力性(B)である。
この(A)と(B)※の合計が1を超えれば、「通貨安で貿易収支が改善する」という現象が期待できる。
この考え方をトランプ政権の政策に当てはめれば「為替レートや関税を通じた輸出入価格の変動に対し、輸出入数量がどれほど変動するか」という検討をすることになる。
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