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「トランプ関税を作った」保守派エコノミスト=オーレン・キャス氏とは何者か? 彼の語る経済政策とは。そしてどのように評価できるのか

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トランプ政権の関税政策での理論的支柱とも言われるアメリカ保守派エコノミストのオーレン・キャス氏(写真:AP/アフロ)

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トランプ政権の関税政策におけるブレーンの1人で、ハーバード大学卒業のアメリカ保守派エコノミストであるオーレン・キャス氏が3月に来日した。自由貿易を否定し、一見ハチャメチャに映るトランプ関税はどんな論理を基に構想されたのか。学習院大学渡邉真理子教授は「彼の主要な論点は、理不尽とは言えない」と語る。
トランプ大統領のトリッキーなディールに惑わされず、台頭するアメリカ新保守派のロジックを正面から理解するためには、キャス氏は格好の人物だ。渡邉教授がキャス氏の経済政策を読み解く論考を東洋経済オンラインに寄稿してくれた。以下がその本文である。
本記事は2025年4月20日7:00まで無料の会員登録で全文をお読みいただけます。それ以降は有料会員限定となります。

ヴァンス副大統領のアドバイザーとしてメディアに登場することが増えているオーレン・キャス氏は、「American Compass」というシンクタンクをたった2人で立ち上げ、現在も6人で活動している。そして「Understanding America」というブログで、そのアメリカが抱える問題と不満について、論拠となる論考を示しながら、綴っている。

彼の論文は、理論モデルと計量分析による形式をとってはいないものの、議論そのものは正統的な経済学に基づいた論旨を展開している。彼の主要な論点は、理不尽とは言えない。そして、彼の議論が論拠として取り上げている事象については、経済学の研究の蓄積の中で実証分析による論証が行われているものもある。

4月上旬に世界を揺るがしたトランプ政権の関税政策は、国際経済体制への不満の表明である。現在のWTO体制があるタイプの「市場の失敗」を補正できていないことからくる不均等は確かに存在する。これを修正することで、自由貿易体制を支えてきた通商ルールをアップグレードすることは必要だ、と筆者は考える。

キャス氏「1980年代の日本の輸出自主規制が理想形だ」

トランプ関税が発表された直後の4月5日に更新されたUnderstanding Americaで、レーガン政権が日本から引き出した輸出自主規制(VER)が「アメリカン・カムリ」(トヨタがアメリカで大ヒットさせた乗用車)を生み出したエピソードからスタートしている。強いレーガン政権が日本のアメリカ投資を誘発し、それがアメリカメイドの製品をつくり雇用を生み出した流れは、トランプ政権の関税政策が想定するもっとも美しいもの、と書いている。

そのうえで、次の3つの点を議論している。

① グローバル関税(Global Tariff)。ほぼすべての輸入品に対する10%の「グローバル関税」は、恒久的なものになる。北米にアメリカが主導する貿易圏をつくるためにメキシコとカナダに対しては、USMCA(アメリカ・メキシコ・カナダ協定)を修正したうえで、関税の免除を考える。グローバル税率は、アメリカの全体的な貿易赤字の動向によって調整する。
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