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小林俊介・みずほ証券チーフエコノミストに聞く、相互関税と「第2のプラザ合意」説の行方。関税ショックは峠越えか、それとも激動の始まりか

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トランプ大統領によるアメリカの相互関税がついに発動された。これは激動の始まりなのか(写真:Bloomberg)

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アメリカの相互関税が4月9日、ついに発動された。世界最大の経済および輸入大国の保護主義政策はどの程度の打撃を世界に与えるのか。また対外姿勢を方向転換したアメリカが「関税の次」に繰り出すものは何か。みずほ証券小林俊介チーフエコノミストに話を聞いた。(インタビューは4月7日に実施)

――トランプ大統領の相互関税発表後、金融市場の動揺が続いています。アメリカの一連の関税引き上げが経済に与える影響をどのように見ていますか。

金融市場では、「日本銀行はもう2度と利上げできない」「今後のFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)の利下げは年内4回へ増え、アメリカ政策金利は3%台前半まで下がる」といった見方が台頭したが、私はもっと冷静に考える必要があると思う。

実体経済への影響は大きいが限定的

確かに、関税が実体経済に与える打撃は大きい。しかし、次の2つの意味で限定的だ。リーマンショックやコロナ禍のときの経済急落のような絶望的状況ではない。

第1に、これは人為的な問題であるということだ。例えば、アメリカの景気悪化が想定以上であれば、2026年秋の中間選挙前までにトランプ大統領が関税を引き下げることはありうる。さらにイーロン・マスク氏が率いる「政府効率化省(DOGE)」の連邦機関リストラで浮いた財源とともに、トランプ大統領は関税による税収増を減税の原資にしようとしている。この辺りは後述するが、人為的な問題なのでプラスに作用する手も繰り出すことができる。

第2にコロナ禍ではロックダウン(都市封鎖)によって年率10〜30%の四半期GDP(国内総生産)の急落が主要国で生じた。また、リーマンショックでは連鎖的な国際金融危機が起き、一時的に制御不能になった。今回の関税問題による経済の落ち込みはこれらよりは小さく、さらに金融危機も起きていない。

――定量的にはどれくらいの打撃となりそうですか。

昨年のアメリカの輸入額に関税率を掛け算してみると、ざっと7654億ドル(約110兆円)。これだけの増税分をアメリカ国民と輸出業者が負担することになる。大雑把に言うと、世界に対して110兆円の増税をしました、ということだ。

これに対し、世界のGDPは約110兆ドルある。つまり、さきほどの7654億ドルにマイナスの波及効果を加えても、今回の関税は世界のGDPの1%程度を毀損する程度だ。コロナ禍のときの2桁パーセントの落ち込みとはレベルが違う。

さらに今回のインパクトは需要減少ではなく増税なので、その分だけアメリカの財政赤字が縮小したり、トランプ政権が予定する減税の原資になったりすることも考慮する必要がある。

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