トランプ関税は、インフレや景気悪化を招くと懸念される。その恐れこそが脅しの武器となる。
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アメリカ経済は、「景気は大幅に悪化せずに、インフレ率が減速する」というソフトランディング路線を歩んでいる。
2024年10〜12月期の実質GDP成長率は前期比年率2.3%で、なかでもアメリカの自律的な成長を反映する民間最終需要(個人消費、設備投資、住宅投資の和)は同3.2%と2四半期連続で3%台となった。
インフレ率も緩やかに減速してきた。FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)が重視するPCE価格指数は、2024年10〜12月が前年同期比2.4%と、前年同期の2.8%からペースダウンした。
しかし、トランプ新政権の発足を契機に、ソフトランディング路線から脱線するリスクがある。その脱線の主因は、移民排除と追加関税措置だ。
高インフレ&景気悪化の恐れ
移民排除に関しては、トランプ大統領は、1月20日の就任直後に、「アメリカ第一の優先事項」を公表し、最優先課題として不法移民対策を取り上げた。
具体的な政策として、南部国境における緊急事態宣言を発令し、国境の壁や不法移民の強制送還の実行力確保に向け、軍隊の出動を可能にした。また、難民の受け入れプログラムの停止や、ビザ発給プロセスの見直し等、不法移民の新規流入を抑制するための大統領令を相次いで発表した。
追加関税措置に関しては、トランプ大統領は、2025年1月20日に「アメリカ第一の貿易政策」という大統領令を発表し、貿易赤字や不公正な貿易慣行の是正、アメリカメキシコカナダ協定の影響、輸出入管理の抜け穴の解消に関する調査・方向をするようUSTR(通商代表部)等に指示した。
加えて、実際の追加関税措置として、トランプ大統領は、2月1日のプレスリリースで、中国に10%、カナダ・メキシコに対して25%(エネルギー等に関しては10%)の追加関税措置を2月4日から実施すると公表した。
こうした移民排除と追加関税措置を実施した場合、サプライチェーンの混乱がインフレを再燃させ、企業や家計の実質的な消費・投資余力が低下することが見込まれる。大和総研はアメリカの実質GDPを3%弱の押し下げ、消費者物価指数(CPI)を前年比ベースで2%弱押し上げると試算している。
最終的には、コスト増による需要の抑制がインフレ圧力の抑制に帰結するという縮小均衡が想定される一方で、一時的には高インフレと景気悪化が併存するスタグフレーションも想定されうる。
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