
首を垂れて従順な態度で近づいてくる首脳には笑顔で応じてわずかばかりの施しを与える。しかし、歯向かったり気に入らない対応をする首脳に対しては、メディアの前で容赦ない非難の言葉と屈辱を浴びせる。
アメリカのトランプ大統領の首脳外交にはとても外交とは言えない要素があふれている。
5月下旬にホワイトハウスで行われた南アフリカのラマポーザ大統領との会談もそうだった。多くの記者の前でにこやかに会話をしていたが、突然、室内が暗くなり、用意された大型の画面に南アフリカで白人農民が不当に迫害されているという動画が流された。
トランプ大統領は「殺害された白人農民の埋葬地だ」などと述べ、批判した。
ラマポーザ大統領は「こんな映像は見たことがない。場所を知りたい」などと落ち着いた様子で応じた。
「白人迫害」南アフリカのものではない映像も
首脳会談冒頭のやりとりは通常はメディア向けであり、どんなに対立した国同士でもにこやかな握手と当たり障りのないやり取りで終わる。しかし、トランプ大統領はそれを「奇襲作戦」に使う。これでは、その後に予定されている会談でまともな会話ができるわけがない。
しかも、今回は後日、映像の一部が南アフリカではなくコンゴ民主共和国のものであることが判明している。実務を担う米政府の組織がいかにずさんであるかも明らかになってしまった。
似たような光景は2月のウクライナのゼレンスキー大統領との首脳会談でもあった。
ゼレンスキー大統領が長引く戦争の苦境を訴えると、同席していたバンス副大統領が突然、「トランプ大統領が戦争を終わらせようとしていることに、お礼のひと言でもあってしかるべきだ」などと激しい口調で批判した。空気は一変し、2人の大統領が激しいやり取りを展開、その様子が世界中に流れた。そのまま会談は終了し、ゼレンスキー大統領は見送りもないままホワイトハウスを後にした。
2つの首脳会談に共通するのは、アメリカ側が突然、会談相手の首脳をメディアの前で非難する手法だ。恫喝や脅しとも見えるような言葉を繰り出し、相手をやり込めたように見せる。これはもう、会談ではなく計画的なプロパガンダの場である。
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