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トランプ再登板で環境エネルギー政策はこうなる 上野貴弘・電力中央研究所上席研究員に聞く

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アメリカの環境・エネルギー政策の形成プロセスについて語る上野貴弘・電力中央研究所上席研究員(撮影:梅谷秀司)

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アメリカの環境・エネルギー政策は、連邦政府や州などのさまざまな法規制が関連し、複雑きわまる。ドナルド・トランプ氏の大統領再就任によるアメリカ国内外へのインパクトはいかなるものか。アメリカのエネルギー・環境政策や気候変動に関する国際交渉に詳しい、電力中央研究所の上野貴弘・上席研究員にインタビューした。

──2025年1月20日にドナルド・トランプ氏がアメリカ大統領に再び就任します。環境・エネルギー分野ではアメリカ国内外にどのようなインパクトがありそうですか。

まず国際的に見た場合、気候変動対策に関するパリ協定からの脱退が有力で、国際社会に大きなインパクトを与える。正式な脱退は通告から1年後に効力を持つ。ただ、これは既定路線だ。むしろ懸念されるのは、パリ協定の根幹となっている国連気候変動枠組条約(UNFCCC)からの脱退の可能性だ。トランプ氏自身はその可能性について明言していないが、トランプ氏に近い関係者やシンクタンクから脱退論が出ている。

UNFCCCから脱退した場合のインパクトとして大きいのは、将来、パリ協定に再復帰することが難しくなるという点だ。というのも、パリ協定の締約国になるには、UNFCCCの締約国であることが必須となっているが、UNFCCCはパリ協定とは異なり、一度抜けると復帰が難しいかもしれないためだ。

パリ協定の場合、大統領権限で脱退や復帰が可能だが、UNFCCCについては、脱退後に復帰する場合に、合衆国憲法に従って上院の3分の2以上の同意を再び取り付ける必要があるのか、あるいは1992年のUNFCCC締結承認が引き続き有効なのか、判断が難しい。

トランプ氏の後の将来の大統領が1992年の承認という事実に基づいて復帰する権限があると判断し、その手続きを取ったとしても、反対する側が訴訟を起こすことで、連邦最高裁まで争われる可能性がある。UNFCCCから脱退してしまうと、パリ協定再加入もままならない。

脱炭素化へのモメンタムは低下

──アメリカがパリ協定から脱退した場合の世界の気候変動政策への影響は。

開発途上国支援のための資金の確保が難しくなる。アメリカの負担分をほかの先進国が肩代わりすることは金額の大きさから見ても事実上不可能であり、パリ協定の国際的な求心力は弱まる。

ただし、多くの国がアメリカに追随してパリ協定から脱退するかというと、必ずしもそうならないのではないか。というのも、ほかに代わりになる仕組みがないからだ。

パリ協定は国別の温室効果ガス排出削減目標(NDC)を5年ごとに提出・更新する義務を課すものの、NDCの達成は義務ではなく、かなり弱い国際条約である。あえて脱退する積極的理由も見出しがたく、脱退ドミノ倒しは起こりにくい。

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