「追加関税によるアメリカの輸入価格上昇」は「ドル安によるアメリカの輸入価格上昇」と同じ話である。いずれにせよ、トランプ政権の抱く「関税をかければ相手国からの輸入価格が上がるので輸入数量は減る。その分、収支は改善する」という発想は、アメリカにおいてマーシャル・ラーナー条件が成立することを前提としている。
第2次トランプ政権発足後、ドル安は進み、関税も執行されているため、アメリカにマーシャル・ラーナー条件が成立するならば、輸出増加と輸入減少を通じて、貿易赤字は減少に向かうことが期待される。
問題は、輸出入価格の変動に対して輸出入数量がビビッドに反応するわけではない、という事実だ。これは既存契約や既存設備の制約があるから当然である。
理論的にはマーシャル・ラーナー条件は短期的には成立せず、「通貨安によりしばらく輸入のほうが大きく増えてしまい、貿易赤字が拡大する」という現象に直面する。その後、時間と共に通貨安によって輸出数量が押し上げられ、次第に貿易赤字が縮小ないし貿易黒字への転化・拡大が実現する。
貿易収支は一時的に悪化するものの、じわじわと改善に向かうというわけだ。いわゆるJカーブ効果と呼ばれる現象である。
これ以上の教科書的解説は割愛するが、「輸出入価格へ直接的に介入したところで所期の効果がすぐに現れるわけではない」という点は留意すべきである。
アメリカの貿易赤字は拡大しやすく、縮小しにくい
では、アメリカでマーシャル・ラーナー条件は成立しているのか。
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