あなたの隣にいる「普通の人」が悪魔に変わる

「ルシファー・エフェクト」から分かること

ジンバルドーは、自戒を込めながらも、一部の腐ったリンゴが周りを腐らせて、全体が悪くなっていくのではない、と力説する。腐ったリンゴを作りうる入れ物があって、その入れ物にある状況がもたらされれば、中にあるどのリンゴだって腐りうる。すなわち、誰であっても、システムと状況次第で悪魔になりうるのだと結論する。

監獄実験に続いて、これに似たような心理実験がいくつか紹介される。すぐにミルグラムの「服従実験」が思い浮かぶかもしれない。しかし、服従実験よりも監獄実験の方がたちが悪い。服従実験では、被験者が命じられた残酷な命令に従っただけだが、監獄実験では、看守役を割り振られた被験者自らが過酷な命令を作り上げていったのだから。

ついで、監獄実験と同じようなことが現実の世界で繰り広げられた例として、イラクのアブグレイブ刑務所で起こった米兵による捕虜虐待事件が紹介される。全裸の囚人が積み重ねられたピラミッドの横で明るくほほえむ女性兵士の写真など、おぞましい出来事の報道を覚えておられる人も多いだろう。

自分がその状況に置かれたら……

この事件は、ごく一部の異常な兵士が行った倒錯した行為であると報道され、多くの人もそう判断しているだろう。しかし、ジンバルドーの解釈は違う。アブグレイブで起きたことは監獄実験と同じである。すなわち、普通の兵士たちが、腐ったリンゴをつくってしまうような入れ物のなかで、望ましくない状況に置かれたためであると考える。そして、そう判断できる論拠を次々とあげていく。

あらすじを聞いただけでは半信半疑かもしれない。私だってそうだった。しかし、この本で細かく紹介されるそれぞれの学生や兵士たちのエピソードを読むと、自分だってそのような状況に置かれたらどうなることやらわからない、と、間違いなく納得させられるはずだ。

どうすれば、腐ったリンゴにならずにすむか、そして、どうすれば、腐ったリンゴを作り出すシステムや状況を改善させることができるかが最後に論じられる。その結論はハンナ・アーレントが考察した結果と同じだ。自分の頭で考えること。囚人たちは、思考が停止したかのように、外部のことが考えられなくなり、監獄、すなわち、自分たちが閉じ込められたシステムばかりにしか注意を払うことができなくなり、深みにはまっていったのだ。

考えてみると、われわれはすべて、国家や職場、家庭、その他いろいろなシステムに属している。慣れすぎていて気づかないが、はたしてシステムにリンゴを腐らせるような潜在的な要素はないだろうか。そしてそこに、何らかの拍子に、腐ったリンゴがうまれうる状況が訪れることはないだろうか。システムから一歩離れて、それぞれのシステムはおかしくないか、状況は大丈夫かを、つねに自分の頭で考えること、そして、おかしければ勇気を持って声を上げて行動することが必要なのだ。もちろん、決してたやすいことではないのであるが。

緊張感在る内容に引き込まれる

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この本、あちこちの本屋さんで平積みにされているが、買うには少し勇気がいるかもしれない。なにしろ分厚くて重い。800ページ超、厚さは普通の本に比して優に2倍はある。私とて、手にして一瞬たじろいだ。これだけ分厚いと持ち歩きもできないし、寝転んで読むこともできないではないかと。しかし杞憂であった。読み終わるまでの3日間、あまりのおもしろさに通勤中も手放すことができず、緊張感あふれる内容は寝転んだまま読むことなど許さなかったのだから。

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