室町時代の日本人とアフリカの辺境の共通点 複数の秩序が並立して社会ができている

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中世日本とアフリカの民族の考え方は似ていた?(写真:リュウタ / PIXTA)

対談本はこの世に数多く出ているが、質的にはピンからキリまで玉石混交なジャンルである。最悪のケースとしては、忙しくて文章を書いている暇もない人気の著者や著名人を組み合わせて、その場で即興の言葉を拝借する。お互いのことをよく知らないまま表層的な会話に終始し、それっぽいまとめがあって終わってしまい、読後には釈然としない気持ちが残ることになる。

いやなに、すべての対談本がそのような粗製乱造された、低コストで売れる本──であると言っているわけではない。何を隠そう本書『世界の辺境とハードボイルド室町時代』も対談本である。もちろん本書の場合、「お手軽に売れる本をつくりましょうぜ、グヘヘ」などという経緯をたどっていない(そんな経緯は本書に限らずどこにもないと思われるが)。

それではどのような経緯があったのかといえば、本書は、たまたま編集者が同席した場でノンフィクション作家である高野秀行さんと、日本の中世史研究者である清水克行さんの2人が、「中世日本人とアジア・アフリカの辺境全般に似ているよね」と話をしていたら、めちゃくちゃ面白かったので本にしましょうかという「偶然」によって成立した本なのだ。

両者の経歴と読む前の思い込みについて

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もう少し詳しく両者の経歴について触れておくと、高野秀行さんは最近では『独立国家ソマリランド』が注目を浴びたノンフィクション作家である。普通の人が行かないアジアやアフリカなどの辺境地隊へ赴いて、時にはアヘンを自ら栽培してアヘン中毒になってみたり、ソマリランドへ行ってなぜかソマリの海賊になった場合の儲けを試算してみるなど身体を張って「面白く」文章を書くエンターテインメント・ノンフィクション作品群を発表し続けている。

対する清水克行さんは、『耳鼻削ぎの日本史』や『喧嘩両成敗の誕生』『日本神判史』など普段なかなか疑問にも思わないものの、「言われてみればそれは疑問だな」と思わせる問いで歴史を見直し、一般向けノンフィクションに仕立て上げる歴史作家であり、本職は日本の中世史を専門にしている歴史学者である。

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