このような若手社員にとって、「石の上にも三年」「置かれた場所で咲きなさい」といった会社都合に聞こえる言葉はむなしく響くだけだろう。
育てていきたい「We感覚」
昨今の若手社員が置かれている状況がご理解いただけただろうか。このような背景から、冒頭で例を出した若手社員のように、「このままこの会社で働き続けて、自分のキャリアは大丈夫だろうか……」と懸念を抱きながら働いている人は少なくない。
いわば、会社を「品定め」している状態だが、この状態でいる限り、ちょっとしたきっかけで離職に至る可能性が高い。
しかし、一定期間を過ぎると品定めのフェーズは終わり、「この会社で働いている自分が当たり前」と感じられるようになる。これは、会社が「自分の人生の一部」として位置づけられた瞬間だといえよう。
この感覚を得られたときに見られるのが、自社のことを話すときにおける「うちの会社は」という言い方から、「私たちは」という言い方への変化だ。これは、個人人格と組織人格の境目が曖昧になり、自分と会社が「一体化」しつつある証拠だといえる。
筆者は、この感覚を「We感覚」と呼んでいる。「We感覚」を持っている若手社員は、ちょっとやそっとのことでは辞めなくなる。なぜなら、こうした若手社員は会社へのコミットメントが高まっており、「退職することは自分が大切にしてきたことを否定することになる」と感じるようになっているからだ。
もちろん、個人と会社は別人格なので、原理的に一体化することはない。しかし、自社のことを「私たちは」と表現するようになったとき、「組織人格が個人人格に入り込んだ状態」になっているのは間違いない。
若手社員の離職を防止し、定着を図りたいのであれば、オンボーディングのゴールを「戦力化」ではなく「一体化」に置くべきだ。「戦力化できたから、もう大丈夫だろう」と思っていると、ある日突然、予期せぬ退職宣言を受けることになる。若手社員の退職を防ぐためには、オンボーディングで「We感覚」を育むことが重要だ。
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