リクルートのスキマバイト「エリクラ」何が問題か 「マンション清掃43分、836円」うたい文句の罠

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「私自身は若いころにいろんなアルバイトをしたので、清掃やゴミ分別の仕事に恥ずかしさや、抵抗感はまったくありません。でも、誰もがやりたがらない、大変な作業だということも知っています。言葉は悪いですが、昔は『底辺の仕事』だからこそ、報酬や給料は高めだったと思うんです。スキマバイトを使えば管理会社の社員に任せるよりも割安なのでしょうが、こうした仕事をあんな金額でやらせるシステムがあることにショックを受けました」

キヨシさんはリクルート側にはエリクラを通して改善を求めたという。「今後のサービス改善の参考とさせていただきます」といった旨の返信は来たが、キヨシさんに言わせると「『ご意見は承りました』という範囲を出ない回答でした」。

一方のリクルート広報は取材に対し、メールでおおむね次のように回答した。

所定の時間内に作業が終わらないという指摘があることに対しては「お仕事の提供元企業さまには、内容や対価などの具体的条件について正確な情報を提供するよう求めています。ユーザーさまからのご指摘については事実確認し、改善が必要な場合は適宜企業側と協議いたします」。時間や報酬額については「お仕事の提供元企業さまが決定しています。エリクラ側はその検討材料として業務と物件の大きさに応じた目安時間や参考料金を提示しています」とした。

バイトリーダーから「タイミー、邪魔!」

話はずれるが、キヨシさんはこの間、スキマバイトのタイミーも利用した。大きなトラブルはなかったものの、タイミー経由の働き手がほかのアルバイトたちから見下されていると感じることがたびたびあったという。

ある大手の飲食チェーンでは、厨房の隅でマニュアルに目を通していたところ、バイトリーダーの女性から「タイミー、邪魔!」と言われ、押しのけられたという。もはや「タイミーさん」とも呼んでもらえないらしい。

スキマバイトの問題をリポートすると、「別のアプリを使えばいいのに」「不満があるのにアプリを利用している人も悪い」といった指摘をされることがある。しかし、それは問題のすり替えだ。そもそも選択肢としてアルバイトの間で格差が生じるような働かせ方が存在していることの是非を考えるべきだ。

企業がスキマバイトを重宝する背景には人手不足がある、との指摘はよく耳にする。人手不足を解消するためには労働生産性の向上が不可欠だというのも定番のロジックである。

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しかし、私にはいまひとつピンとこない。人手が集まらないのは、まともな条件や待遇の仕事ではないからということも一因なのではないか。そもそもスキマバイトアプリを使えば人が集まるなら、人手不足ではないだろう。社員一人当たりの付加価値額を上げるという大義名分のもとに、採用や研修にかかる最低限の費用を削り、代わりに劣悪な条件で働く人たちを生み出す仕組みをつくることが、本当に社会や経済の活性化につながるのか。

私の心情を代弁するように、キヨシさんがこう言った。

「病気や障害があってスキマバイトの収入に頼るしかないという人も一定数いるはずです。こんな条件の働かせ方が広まっていくのは健全とは思えないんですよね」

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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