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本業の減収をスキマバイトで補ったキヨシさん。所定の時間内には終わらない現場が多かったが、「業務時間が延びても報酬は変わりませんでした」。実際の作業に加え、多いときで100枚の写真を添付するなどした報告書の作成に手間がかかったという(筆者撮影)
現代の日本は、非正規雇用の拡大により、所得格差が急速に広がっている。そこにあるのは、いったん貧困のワナに陥ると抜け出すことが困難な「貧困強制社会」である。本連載では「ボクらの貧困」、つまり男性の貧困の個別ケースにフォーカスしてリポートしていく。
今回紹介するのは「リクルート社運営の『エリクラ』というアプリにて「スキマバイト」を実際にやってみたのですが、これがあまりにも労働者にとってひどいシステムで……」と編集部にメールをくれた54歳男性だ。
あまりにも労働者にとってひどいシステム
東京都心にある4階建てマンション。敷地内のゴミ集積ボックスのふたを開けると、甘酸っぱい腐敗臭が鼻を突いた。山のようなビニール袋の中には、スプレー缶が混入しているものもある。ボックスの底をのぞくと、飲み残しが入ったペットボトルが何本も転がっているのが見えた。おしゃれな外観とは裏腹に、ゴミ捨てのマナーがよいとはいえない。
キヨシさん(仮名、54歳)はスマホのスキマバイトアプリで、このボックス内の分別と清掃という仕事を見つけた。作業時間は23分で、報酬は638円。しかし、ふたを開けた瞬間に絶望した。「23分で終わるはずがないじゃないか」。憤りを覚えつつも、引き受けた以上は手足を動かすしかない。
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アプリが仲介する仕事の一例。時間は1分刻み、報酬は1円単位で、清掃やゴミ分別といった短時間の業務が中心だ。「この金額と報酬は、いったい誰がどんな根拠で決めているのか」とキヨシさん。業務委託契約なので正確には“スキマ業務委託アプリ”ということになるのだろうか(筆者撮影)
この日は最高気温35度を超える猛暑日。キヨシさんはマニュアルに従い、まずボックスからすべてのゴミ袋を取り出した。続いて袋の口を開け、スプレー缶やビン、缶など未分別のゴミをより分ける。ペットボトルの飲み残しは近くの排水溝まで行って捨てる。
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