次第に汗だくになり、両手が得体のしれない液体でベトベトになっていくのがわかる。直に捨てられていた使用済みの避妊具をつかんでしまったときは心がなえそうになった。持参したほうきで周辺を掃き、ウエットティッシュでボックス内を拭き上げ、分別したゴミを再び戻す。
監視が目的?作業報告書の写真は約100枚
案の定、作業は1時間近くかかった。しかし、仕事はこれで終わりではない。スマホで写真とコメントを付けた作業報告書を作成し、アプリ側に送らなければならないのだ。
報告書は「このお仕事のお手本報告」やフォーマットに従って作成するのだが、原則作業ごとに清掃前と清掃中、清掃完了後の状態をそれぞれ撮影した写真を添付する。写真の画角などは「ゴミボックスを開けて内部全体がわかる状態で」「ゴミ袋の中が見えるよう開けた状態で」「未分別のゴミを種類ごとに分けたもの」といった具合に細かく指定されている。
作業に時間がかかるのは、こうした写真撮影に手間を取られるからでもある。コメントも、写真ごとに分別状況やゴミの種類、数などを具体的に書かなければならない。
キヨシさんは「添付した写真は30枚ほど。報告書の作成だけで30分はかかりました」と訴える。結局作業終了まで1時間半かかったが、報酬は最初の約束通り638円しかもらえない。時給に換算すると420円ほど。これでは東京都の最低賃金の4割に満たない。
法令違反ではないかと問う私に対し、キヨシさんが「実はこの仕事、アルバイトじゃないんです。業務委託なんですよ」と教えてくれた。なるほど、業務委託であれば、最低賃金や残業手当などの法規制の適用外となるわけだ。
キヨシさんが利用したのは「エリクラ」というバイトマッチングアプリだ。就職情報サイトなどを運営するリクルート(東京)が2019年から始めたサービスである。アパートの清掃やゴミ分別、草むしりなど「数分から数十分で完了する」とされる短時間の仕事が中心で、駐車場のゴミ拾いと草むしり「15分、330円」、アパート点検「11分、352円」、夜間電球チェック「3分、121円」といった募集情報が掲載されている。アプリの利用登録者数は約10万人だという。
業務委託なので、ほうきや雑巾、ウエットティッシュ、軍手などの用具は労働者が持参し、掃除で出たゴミも原則持ち帰らなければならない。
しかし、キヨシさんは一部を除き、指定された時間内に作業を終えることはできなかったと証言する。
例えば、マンション清掃「43分、836円」。そのマンションは6階建てで、マニュアルによると、建物周辺や共用廊下(各階分)、ゴミ置き場、駐車場、駐輪場、消火器ボックス、ガスメーター、インターホン、募集用看板など20カ所以上の清掃を指示されていた。報告書の添付写真は約100枚に上り、作業終了までに2時間近くかかったという。
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