リクルートのスキマバイト「エリクラ」何が問題か 「マンション清掃43分、836円」うたい文句の罠

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報告書に添付した写真。事前に「雑巾やウエットティッシュの汚れた部分や使用した枚数がわかる写真を撮るように」という旨の指示を受ける。左奥のゴミ袋は中身がわかるよう、袋の口を開けたカットを別途撮る必要がある。そうしないと報告書の送信ができず、報酬がもらえないこともあるという(写真:キヨシさん)

ここでは最初、ガスメーターの場所がわからず、所定欄を空欄にして報告書を送ったところ、「未完了」として差し戻されるトラブルもあった。キヨシさんは「あちこちの扉を開けてガスメーターを探し出すのに20分かかりました」と振り返る。

キヨシさんによると、別の現場でも、写真や報告が不足しているとして報告書を差し戻しされたことがある。報告書を提出しないと報酬はもらえない。キヨシさんはそのたびに現場に戻って写真を撮り直したり、コメントを書き直したりしたという。

私が驚いたのは、「ウエットティッシュなどを持って拭いているときの手元」や「使用したウエットティッシュなどの汚れた部分」などの写真を撮らなければならないと聞いたときだ。まるで労働者の監視が目的のようではないか。

これに対し、キヨシさんは「中にはいい加減な仕事をする人もいるでしょうから、(アプリ側の)気持ちもわかるんですが……。ちょっとやりすぎですよね」と苦笑する。

トラブルに遭遇しても声を上げづらい

私が取材する限り、スキマバイトの現場では、問題を指摘すると、企業からの求人が表示されなくなったり、最悪アプリの利用ができなくなったりするため、トラブルに遭遇しても声を上げづらいと話す人が少なくない。一方でキヨシさんは自身の体験を詳細に語ってくれた。理由は、別に本業を持っているからだ。キヨシさんは東洋医学に基づく施術院を経営しており、年収は700万円ほど。数カ月前に偶然予約のキャンセルが重なったことから、軽い気持ちでスキマバイトを始めてみたのだという。

「時給に換算したら、悪くないかもとつられてしまったんです。ところが、実際の作業時間は募集時に書かれていた時間を大幅に超える。あの分刻みの時間と1円単位の報酬は、何を根拠に決められているんでしょうか」とキヨシさんは首をかしげる。エリクラでは10件ほど仕事をした。その後は顧客が戻ったので、アプリは利用していないという。

現在は安定した収入を得ているキヨシさんだが、子ども時代は波乱に満ちていた。小学生のころ、父親が不倫の末に出奔。母親の精神的なショックは大きかったという。その後は母親が家計を支えたが、家計に余裕はなかった。極貧ではなかったものの、「大学に行くなら、現役、国立大学で」と言い渡されていたという。

特殊な生い立ちの影響からか、独立心が旺盛だったキヨシさん。高校時代から工事現場や飲食店、清掃などあらゆるアルバイトをしてお金を貯めると、卒業と同時に親元を離れた。20歳直前に大手芸能事務所に飛び込み、コンサート会場の設営の仕事からスタート。才覚を認められ、早々に有名バンドなどのマネジメント業務を任されるようになった。

その後は環境保全プロジェクトにかかわるアーティストを支えるために早稲田大学に入学し、専門知識を身に付けた。同じころに芸能関係者の間で評判のよかった施術の仕事も始め、現在はそれを本業としている。

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