この形態論争はこれまで、経営戦略の優位性やガバナンスの問題に終始しがちでした。それも大事ですが、何よりも考えるべきは、消費者の視点です。保険の理念も大切ですが、結局のところ、保険商品や保険サービスを選ぶのは消費者ですから、この視点こそが重要です。
保険業の本質がリスクの引受けにあるということから考えると、株式会社のほうが多様なリスクに対応しやすい、という利点があります。たとえば、航空機やロケットのリスクは株式会社でないとなかなか引き受けられません。
この種のリスクは発生確率を予測しにくいために相互会社では引受が難しいのです。相互会社が対応できるのは、主として「大数の法則」(第12回連載「保険に潜む確率論、くれぐれもご注意を」参照)が働きやすいリスクに限られるからです。
多くの人は会社の形態で保険を選ぶわけではない
市場経済システムが個人の合理的な消費行動を前提としている以上、このシステムにマッチしている株式会社形態の保険会社が今後とも広がりを見せることは必然の流れと言えましょう。多くの消費者は会社の形態の違いで保険を選びません。価格とプラン内容で経済合理的に保険を選ぼうとします。進化論的に「互いに助け合う」ことが人間の本質であったとしても、たとえ「相互扶助」が保険の基本理念だとしても、消費者がそれを選ばなければ、理念倒れ、掛け声倒れに終わってしまうからです。
冒頭で述べたように、私たちの体には「相互扶助」の遺伝子が組み込まれています。何百万年もの間、共同体のなかで仲間と助け合いながら生きていくことが、日々、安心・安全に暮らすたったひとつの拠り所でした。この感覚はわずか数百年で変わるようなものではありません。お互いが助け合える、信頼できる仲間に囲まれていないと不安で仕方がないのが人間です。保険に入っていても、なぜか本当に安心・安全な気持ちになれない理由はここにあるのです。
これからは、相互扶助の理念が背景の「共同体型保険」と、資本主義の合理性が前提の「市場経済型保険」をうまく融合させていく、新しい保険の形が望まれます。そのどちらかが欠ければ、「保険産業」がいくら人々に安心・安全を提供したいと願っても、心からの安らぎを与えることはできないと思うのです。
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