くら寿司、「シャリカレー」に託す2つの戦略 酢飯+カレーが生み出す化学反応とは?

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シャリカレーには田中社長の並ならぬ思いが詰まっている(撮影:今井康一)

当初は魚介類の出汁を使ったカレールーの開発を試みたが、「インパクトがない」と断念。そこで、欧風カレーではプロの隠し味として酢など酸味の強いものが使われていることに着眼し、シャリを活用したカレーライスの開発に取り組んだ。

ところが、方針が固まってからが「長い道のりだった」(商品開発部の松島由剛マネージャー)。「スーパーで売られているレトルトカレーはすべて試食した」(同)。試作したカレーの数は100種類以上。さらに、調合バランスや炒め方、煮込み方などの違いで味が変わるため、工程の細部にまで気を配る必要があった。 

苦心して完成させた試作品も、社長がなかなか首を縦に振らない。「ほかの役員が『うまい』と評価しても、私だけは何回もNGを出した。10回以上はダメ出しをしたのではないだろうか」(田中社長)。

納得できる味に仕上がらないため、田中社長は「どちらかというと、商品化をあきらめていた」とも明かす。ただ、「昨年の土壇場(年末)に、『これはうまい』『文句なしにおいしい』と言えるものが出てきた」という。

売り上げは計画の1.5倍で推移

10年越しで商品化に漕ぎつけたシャリカレー。食べてみると、ピリッとスパイシーなカレールーの味のあとに、甘みと酸味のあるシャリの味が広がるため、さっぱりとした後味が印象に残る。まさに、主要ターゲットの1つとする20代のビジネスパーソンに受け入れられそうな味だ。

一方で、「子どもは途中で食べるのをやめてしまった。小さいお子さんには味が濃すぎるのではないか」(小学生の子供を持つ40代男性)との意見もある。

販売開始後は「売り上げが社内計画の1.5倍で推移している」(くらコーポ)と、好発進だったもよう。だが、看板商品として定着させるためには、子供やシニア層にも受け入れられるように甘口の味を用意するなど、商品バリエーションを広げる必要があるかもしれない。

ライバルチェーンが、類似商品を投入してくる可能性もある。期待の大型商品の動向に、業界全体が熱い視線を注ぐことになりそうだ。

梅咲 恵司 東洋経済 記者

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うめさき けいじ / Keiji Umesaki

ゼネコン・建設業界を担当。過去に小売り、不動産、精密業界などを担当。『週刊東洋経済』臨時増刊号「名古屋臨増2017年版」編集長。著書に『百貨店・デパート興亡史』(イースト・プレス)。

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