居酒屋の賃上げ交渉は続けるとして、トモヤスさんに言わせると、「ダブルワークの残業代が出ないこともつらい」。
仕事を掛け持ちする場合、法律上は合計の労働時間が法定労働時間を超えると、会社は25%の割増賃金を支払わなければならない。支払い義務があるのは後から雇用契約を結んだ会社。トモヤスさんの場合、1日の労働時間は10時間を超えており、勤続10年のIT関連会社に残業代を請求する権利がある。賃上げが無理でも残業代があれば、勤務時間を短くして体を休めることもできるはずだ。残業代が出ないとはどういうことか。
「請求していないので。そんなことしたら心証悪いですし、働きづらくなりますから」
法律で強制力を持たせればいい
雇用が不安定化する中でアルバイトを掛け持ちする人は増えているし、政府も働き方改革と称して副業を推進している。法律が労働時間を合算方式にしているのはダブルワーカーの長時間労働を防ぐためでもある。しかし、実際は「残業代をもらっている人なんてほとんどいないんじゃないですか」。
有給休暇の取得についても「僕が休むと別の誰かに負担がいくという空気の中では取りづらいです」という。IT関連会社にはかろうじて買い取り制度があるが、居酒屋のほうは毎年10日近い有給が消滅していく。
「(残業代も有休も)法律で保障された権利なんですが、実際には職場の人間関係を壊してもいいくらいの覚悟で“強く主張”しないと取れない。そうなると、いくら法律的に正しくても、行使はしづらいですよね」
ではどうすればいいのか。トモヤスさんは「法律で強制力を持たせればいいと思うんです」と提案する。労働者の側が請求、申請するのではなく、企業側の義務にすればいいという。私の取材実感でも、言い方は悪いが、口を開けて待っているだけで労働者の権利を享受できるのは、大手企業の正社員の中でも恵まれた職場に限られる。よくも悪くも「和をもって貴しとなす」という価値観が浸透している日本社会において、この提案はおおいに検討する価値があるのではないか。
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