こうした過程で出会った発達障害の当事者は、自分の興味のある話を一方的にする人が多かったという。「自分と同じ。まるで鏡を見ているようでした」とシンイチさん。コミュニケーション上の課題を自覚してからは、周囲の雑談にも耳を傾けるようになった。
今も雑談は苦手だ。それでも最近は「それわかります」「へー、そうなんですか」といった相づちのバリエーションを増やすことや、「でも」などの“否定ワード”を使わないこと、相手の話を途中で遮らないことなどを心掛けている。どうしても雑談が苦痛になったときは「ちょっとトイレに行ってきます」と言って中座する“技”も身に付けた。感情の起伏も服薬でなんとかコントロールできるようになったという。
少しは生きづらさも解消されたのでは? 私が尋ねると、意外なことにシンイチさんは首を横に振る。そして「いったん壊れた人間関係は簡単には戻りません」とうなだれた。
自作の「私の取扱説明書」
診断後、職場で障害への「合理的配慮」を求めたこともあるが、上司からは「具体的に何をすればいいのかわからない」と言われた。ならばと、自身の困りごとなどをまとめた「私の取扱説明書」を作成してみたが、今度は支援団体の職員から「細かすぎて伝わらないのでは」と言われてしまった。
本当は同僚たちには研修などを通し、発達障害への理解を底上げしてほしい。ただ人手不足の公務職場では難しいだろう。迷った末、今は障害のことはオープンにしていない。
「これまでの数々の失敗を考えると、打ち明けても発達障害への負の印象が強まるだけなんじゃないかという心配もありました」とシンイチさん。結局たどり着いた答えは「私が定型発達者としての人格を身に付けるしかないんです」。
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