年収500万の公務員が「貧困取材」を受ける事情 生きづらさは「日本特有の人間関係」にある?

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マルチタスクに伴うミスについて、シンイチさんは「かかってくる電話の多くを私が真っ先に取っていたから、というのもあると思います」と分析する。理由は、採用時の研修で「市民からの電話はすぐに取りましょう」と教えられたからだという。自分が納得できる指示であれば、強いこだわりを持って従う。原則に忠実ともいえるが、融通がきかないともいえる。

「ほかの人は書類仕事に集中しているときは電話は取らない。よい意味で逃げるのがうまいんです。今思うと、わからないことがあっても、ほかの人は私のように細かい点にこだわって質問するのではなく、その場は流して後で別の同僚に確認したりしていました」

一方でミスを繰り返すストレスから今度は周囲への言葉遣いが荒くなっていく。もともと怒りの感情を抑えることが苦手。窓口対応中に複数の同僚から同時に話しかけられ、「いっぺんに言われてもわからない!」と怒鳴り返してしまったこともあるという。

圧倒的な自己理解へのこだわり

次第に不眠の症状が出るようになり、終業後も30分以上椅子から立ち上がれない日もあった。産業医のアドバイスで半年ほど休職したものの、事態は改善しなかった。視覚障害のある同僚に心ないことを言ってしまったのは、ちょうどこのころのことだ。

取材で驚いたのは、シンイチさんの話は一貫して客観的、相互的だったことだ。「やらかし」の背景にある障害特性から自身に対する周囲の視線まで、なぜシンイチさんはここまで冷静に自身のミスや失敗を語ることができるのか。

それは徹底した自己理解と自己分析の賜物だ。診断後、シンイチさんはデイケアや就労移行支援事業、生活支援事業といった福祉サービスを利用しながら、民間の自助会や学習会、フォーラムにも足を運んだ。

視覚障害についての無知への反省もあり、障害者スポーツの指導員養成講習会にも参加してみた。大人の発達障害をテーマにした研修会で公認心理師の話を聞いたり、学会で短時間ながらも職場における「合理的配慮」に関する独自の調査結果を発表したりもした。圧倒的な自己理解へのこだわりは、障害特性のプラス面が発揮されたともいえそうだ。

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