氷の国なのに…アイスランドが「トマト大国」な訳 農業を支える火山大国ならではの資源活用

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アイスランドで地熱利用が進んでいる背景の1つには、その地理的特異性がある。地殻プレートの境界に位置するという点では日本と共通だ。しかし、日本はプレートが沈み込む境界に位置するのに対し、アイスランドはプレートが生まれる境界に位置する。

プレートが生まれる境界は通常、海底に位置し海嶺と呼ばれるが、アイスランドはそれが地上に出ている唯一の土地だ。マグマ溜まりが地上付近の浅いところにあるので、プレートがもぐりこんだ日本のように深くまで掘削することなく地熱が利用できる。

アイスランドは、この図で「プレートが生まれる場所」となっている東太平洋海嶺と同じような条件にある(出所:東京大学地震研究所)

地熱を利用してパンを蒸したり、料理をしたりしようという発想も、地表近くに利用できる熱源があるという環境あってのことだろう。さらに、石油も石炭もとれず、木すらも乏しかったという制約条件も背中を押しただろう。

個人で地熱を利用するという発想

日本は、地熱埋蔵量でいうと世界3位の量を誇り、アイスランドの4倍ほどもあるが、利用はあまり進んでいない。マグマ溜まりが深くにあることに加えて地盤が硬いため、掘削にコストがかかるという自然科学的条件もあるようだが、その他には地熱発電適地が自然公園に多いこと、温泉事業者の反対があること、既存電力事業者の抵抗があること、などの社会的要因も挙げられている。さらに日本の人口密度はアイスランドの約110倍なので、用地確保が難しいという点もあるだろう。

自然科学的条件も社会環境も異なる両国を単純比較して、日本がどうこう言えるものでもない。ここで私が興味惹かれたのは、発電のような大スケールの話よりも、パンを蒸したり共同台所を作ったりといった、個人レベルでの地熱利用だ。

高い蒸気温度の熱源があったから使えたわけだけれど、身のまわりの資源を利用してなんとか食物を生み出そうという人間の知恵は、いつの時代のどこの土地の人をみても敬服する。そういう身体レベルの資源利用から、社会スケールのサステイナブルな資源活用の発想も出てくるのではないか。

冬のアイスランドは確かに旅行のベストシーズンではなかったが、このような食の知恵に出会えたから、ほくほくして帰ってきた。

この連載の初回です
岡根谷 実里 世界の台所探検家

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おかねや・みさと / Misato Okaneya

東京大学大学院工学系研究科修士修了後、クックパッド株式会社に勤務し、独立。世界各地の家庭の台所を訪れて一緒に料理をし、料理を通して見える暮らしや社会の様子を発信している。講演・執筆・研究のほか、全国の小中高校への出張授業も実施。立命館大学BKC社系研究機構客員協力研究員、大阪大学感染症総合教育研究拠点(CiDER)連携研究員、京都芸術大学非常勤講師。近著に「世界の食卓から社会が見える(大和書房)」。

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