標高が4000m近いこの場所では森のような木々は育たない。しかも、スピティは寒冷砂漠エリア。緑があっても、高木は見当たらない。
カナさんの表情から察するに、覗き見しようとした男に相当怒っているようだ。
それにしても、チベットの女性たちは、いつもどうしているんだろうか? 若い女性なら、同じ感覚を持っているはずだが。
酸素の薄い高地で置き去りのピンチ
「あ、ごっつさん、バスが出発している」
「やべー、本当だ」
2人は大声をあげ、手を振りながら、発車したバスを追いかけた。こんな辺ぴな場所で置き去りにされたら大変だ。
10mくらい進んだところで運転手が気づき、止まってくれた。酸素が薄い高地で猛ダッシュしたので、肺が悲鳴をあげている。
「はぁ、はぁ、インドと違って、定刻通りなんですね」
「はぁ、はぁ、多分、乗客の誰かが気づいてくれたんだよ」
やはり、このエリアでは時間を守る習慣が根付いているようだ。
それとも、乗客の人数など気にしないほど、運転手が大ざっぱな性格なのかもしれないが。
とにかく、こんな場所に置き去りにされたら命に関わる。ここはヒマラヤ山脈の最奥地なのだから。
バスはさらに進み、道が二股に分かれる場所で一度降り、アタルゴ橋で10人乗りのバンに乗り換えた。
ピンバレー(ピン渓谷)に入ると、眺める景色が変わってきた。山々が高くなり、より険しく、雄大になっていく。頂上部分に、雪が残った標高6000mを超える山々がいくつも見える。
太陽が落ちてくると、谷底に川が流れる渓谷全体に青みがかり、美しい景色が、なぜか「死」を連想させる不気味な景色に変わった。
山肌の巨大な崖が黒みを帯び、圧迫感を与える。
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