大人の教養は「教科書」で身につけよう! 下手なハウツー本よりずっと使える
教科書を教養書に
「普通にはない、珍しい本」
三省堂書店神保町本店の鈴木洋さんがそう評したのは、山川出版社の「もういちど読む」シリーズだ。高校の教科書を一般読者のためにリライトしたもので、2009年8月に『日本史』と『世界史』が同時発売された。それ以降、ほぼ毎年4月に新刊が発売され、現在計8冊が出ている。「売れている本でも1年半くらいで勢いは止まるが、このシリーズは勢いが衰える気配は見えず、売れ続けています」
「もういちど読む」シリーズの『世界史』を企画した編集部の山岸美智子さんは、「何人もの専門家が関わっている教科書は、非常に贅沢な書物。教養書として見直せないかと思ったのがきっかけです」と話す。
山岸さんは以前から、安直なハウツー本があふれていることに「それでいいのか」という思いを抱いていた。教科書には必要十分な知識がコンパクトに詰まっている。高校生が読んで理解できるように作られているので、内容が濃いのに分かりやすい。受験のためだけに使うのはもったいないのでは。もういちど読み直す機会をつくりたい。「最初は地味な企画でした」
しかし、反響はすぐに表れた。1カ月もしないうちに増刷が決定。それまで「ベストセラーは出せないけど、ロングセラーには自信がある」が社内での笑い話だったというが、思わぬヒットに驚いた。現時点で、『日本史』は22刷の約39万5千部、『世界史』は19刷の約28万7千部。同シリーズの『政治経済』『倫理』『地理』なども好調な売り上げだ。
今さら聞けないことも
「もういちど読む」シリーズには、原本である教科書を、読みやすく変える仕掛けが随所に施されている。
教科書は受験に出題されるかもしれない情報をとりこぼさないために注釈があちこちに入る。それらを取り除き、必要な内容は本文で紹介。重要キーワードを目立たせるゴシック体もやめた。歴史の基本的な流れを理解しながら重要なテーマの知識を得られるように、コラムをふんだんに入れた。『日本史』では、学問の進歩で認識が変わった内容について、「ここが変わった」とわかる解説注をつけた。
例えば、かつて「大和朝廷」と呼ばれていた4世紀から7世紀の中央政府は、「大和」の表記が用いられるのは8世紀後半以降であることなどから、現在では「ヤマト政権」と表記されることが多いという例や、「源頼朝像」とされてきた肖像画が足利直義とする説が出ていることなどから「伝源頼朝像」と表記されるようになった、という具合だ。