大人の教養は「教科書」で身につけよう! 下手なハウツー本よりずっと使える
教科書の利点は、専門家が自説を横に置き、学会で常識とされていることをベースに書いている点だ。「今さら聞けない」といったことも、教科書を開けば載っている。
たとえば、イスラム問題が世を賑わせているが、シーア派とスンニ派の対立については、「ウマイヤ朝をはじめとするイスラーム教徒の多数派はスンナ派(スンニー)と呼ばれ、ムハンマドの言行(スンナ)を生活の規範とし、共同体の統一を重視する。一方、シーア派は、第4代カリフであったアリーの子孫だけが共同体を指導する資格があると主張して、以後スンナ派と対立してきた」(『詳説世界史B』、102ページ)と、山岸さんが言う「俯瞰的な立場から見た真実」が淡々と述べられている。
「『今』がどういうところにあるかを知るには、まずは歴史を知ること。教科書や、このシリーズを最初の教養書として、ご自身の関心でさらに知りたいことへの知識を深めていってほしい。答えが先に用意されたハウツー本では手に入れられない教養を身につけられると思います」
学参のバイブルが文庫に
1970年代に参考書のバイブルと言われていた『新釈現代文』(新塔社)と『古文の読解』(旺文社)について、「あの頃の心の支え」と語るのは、貸本マンガ研究家の吉備能人さん(47)。
受験生時代、「『新釈現代文』を5回読めば早稲田・慶應、10回読めば東大に合格できる。『古文の読解』を読み込めば、古代人の気持ちを理解するための古文を理解できる」と聞き、現代文と古文ではほかの参考書に目を向けず、この2冊を読み込んだ。その甲斐あってか、予備校などに行かず、慶應義塾大学法学部に現役合格。ずっと頭の片隅にあった2冊の参考書が文庫本で復刊されたと知り、すぐに購入したという。
単なる文法の解説本ではなく、当時の情景を伝える一級の読み物。だから受験を離れて読んでも面白い。文章を読み解く力の原点になっているように思います」
『古文の読解』の編集を担当した筑摩書房の高田俊哉さんは、「受験を離れた大人が古典をゆっくり味わうための最適なガイドにしてもらいたい」という気持ちを込めた。それは読者にダイレクトに伝わったようで、「古文を読もうと思っても古典の文法なんて忘れてしまっている。参考書もどこかに行ってしまった。そんな時、ちょうどいい本が復刊された」といった感想が寄せられている。
『古文の読解』は、1962年に旺文社から出版された。著者の小西甚一氏は国文学研究者。英語、中国語に堪能で、独仏韓語の読み書きもできたという。文中では、古文の説明をするのに英語や化学式なども用いている。「知識欲をくすぐる文章。参考書ですが、『こう覚えればいい』といったテクニック的なところがなく、いま読んでも全く古くない。私自身、ひとつの読み物として楽しみました」