実際、昼食の時間、林屋さんは周囲の人に机にお弁当箱を置いてもらったり、スプーンを手に取り付けてもらったりしただけで、その後は机の高さを利用して1人で食べていたという。
石橋さんは「『合理的配慮』は、肩ひじを張って堅苦しく考えるより、それぞれの人が力を発揮するために必要な工夫ぐらいの感じですよね」と話す。
母親が会社へ出向きトイレの介助
林屋さんにとって、同法人でのインターンシップは大変有意義な時間となった。
だが、企業で肢体不自由のある人を受け入れるときは、社内のバリアフリー化や、食事や排泄など生活介助のための人材が必要となることが少なくない。社内の誰かが介助を担当するわけにいかず、安全性も確保しなければならない。
特別支援学校の近くの企業が学生を受け入れた場合は、学校の教員が介助のために出向くこともあるという。林屋さんのときは、事前に同法人と学校が打ち合わせて、母親が決まった時刻に会社へ出向き、トイレの介助に当たっていた。
このような理由で、学生は、生活介助を専門とする介護福祉士がいる施設で、インターンシップを経験することが多い。しかし、企業でのインターンシップは、障害のある学生の可能性の発見や成長につながるため、特別支援学校の教員は「実社会で、ぜひ経験してほしい」と願う。
この肢体不自由の人が企業で働きにくいことを解決する方法は2つある。
1つめは、企業における障害者の在宅勤務を促進させること、2つめは国の障害福祉サービス「重度訪問介護」の現行の利用制限を撤廃し、就労・修学・通勤・通学でも使えるようにすることだ。
前者については、株式会社沖ワークウェル(東京都港区、特例子会社)の事例を紹介する。
同社では、2004年の設立時から在宅勤務を取り入れており、従業員は出社の義務はない。24の都道府県から採用した従業員89人のうち68人(76%、2024年1月時点)が在宅で仕事をする。障害者は89人中79人で、約6割が重度の肢体不自由のある人だ。
勤務は1日6時間・週30時間で、OKIグループ内外の企業のホームページ制作、システム開発、デザイン制作、データの入力・加工、名刺作成などの業務にあたる。
香川県在住の山根誉与さん(23歳)は、チラシのデザインやイラスト作成を担当する。手足や体の筋肉に力が入らないため、パソコン操作はジョイスティックマウスを用いる。勤務時間は8~15時。食事やトイレの介助の時間には訪問介護のヘルパーが家に来るため、仕事を中断する。
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